【短期連載 vol.1】若手映画プロデューサーが考える、これからの映画作りのこと。『佐々木、イン、マイマイン』汐田海平×『街の上で』髭野純対談

インタビュー
デジタル化が進み、誰でも映画を撮れるようになり、メジャー、インディーズ、自主と、さまざまな形で多くの映画が作られています。「映画は初週の動員が重要」という言葉を耳にすることもありますが、それはどの映画にも当てはまることなのでしょうか。映画作りの体制や環境が変化しつつある今、公開や配給や宣伝の在り方も、もっと多様化して良いのではないかと考えています。
今回の短期連載では、現在公開中の映画『街の上で』(2021)のプロデューサー髭野純さんを軸に、同世代の若手映画プロデューサーに「これからの映画作り」や「映画を取り巻く環境のこと」などについてお話を聞いていきます。第一回目は、2020年に公開がスタートし新宿武蔵野館ではロングランヒット、第25回新藤兼人賞をはじめさまざまな映画賞で受賞した映画『佐々木、イン、マイマイン』(2020)のプロデューサー汐田海平さんと髭野さんの対談インタビューです。

映画を作って見えてきたこと

お二人は映画プロデューサーでありがら、さまざまな形で映画に関わっていらっしゃいますよね。

髭野純(以下、髭野) 自分は大学を卒業してから会社員として働いていたんですけど、まずは一本プロデューサーとして映画を作って、配給や宣伝もチャレンジしてみたいなと思って、27歳のときに自己資金で、中村祐太郎監督と『太陽を掴め』(2016)という映画を作りました。

100%自分の出資で作ると、リスクはあるんですけどコントロールもできるので。まずは自分で作ってみて、川上から川下までを見てみたいという気持ちが大きかったです。いろいろとやらなければいけないことも見えてきて、「わかっていないことがわかった」という感じでしたね。

汐田海平(以下、汐田) 僕は大学で映画評論を学び、在学中からチームでの映像制作をはじめました。プロデューサーとして最初に作った作品は、瀬田なつき監督の『5windows』(2012)という作品ですね。知り合いから「こういうのを手伝ってくれませんか?」とか「こういうのをやりたいんです」という感じで仕事が発生していくこともあるので、いろいろなポジションで作品に参加することがありました。

協力プロデューサーや、コ・プロデューサーなどで製作委員会に入ったことはあるんですけど、自分がメインプロデューサーの作品では、製作委員会方式や法人から出資を受けて作った作品はまだ無いです。『蜃気楼の舟』(2015)という作品は監督と僕でお金を出し合って作り、『西北西』(2015)は、個人の方に出資していただいて作りましたし、『佐々木、イン、マイマイン』もクラウドファンディングと自社資金なので、一社製作です。製作委員会方式や、何社かで出資して作った作品の流れも知ったうえで、今後もできればクリエイティブと意思決定が連動しやすい一社製作に近いスタイルで引き続き作っていきたいなと思っています。

髭野さんはいかがですか?今後の製作スタイルについて、どう考えていますか?

髭野 『街の上で』は製作委員会方式で作りましたが、監督や自分がやりたいと思っていることを尊重していただける出資者の方に集まっていただけました。規模が大きくなると、関わる人も増えて、自分の目が届く範囲が一部になってしまうのかなと。大きな規模の映画を作りたいという気持ちは今のところあまり無いですね。

例えば主題歌にしても大きな規模の映画だと、「もっと有名な人にお願いしたほうがいいのでは?」といった意見がでる場合もあると思うんです。そういった取捨選択は本当に難しいなと思っていて。

配給のみを担当している作品もあるんですが、基本的には監督と二人三脚で進められることが前提と思っています。宣伝は映画を作る時点から始まっていると思うので、制作と配給・宣伝が分断されることに対しては常に懸念があります。

汐田さんは『佐々木、イン、マイマイン』、髭野さんは『街の上で』を作ってみて、気付いたことや見えたことはありましたか?

髭野 『街の上で』は11館からのスタートで、それでも少ないと思われるかと思いますが、これまでは東京1館、多くて2~3館スタートから広げていく規模の作品にしか関わっていなかったので、今回のような規模は初めてで。コロナ禍であること以前に、物理的に同時に劇場へ顔を出せないということは初めての体験です。本当ならなるべく全劇場へ御礼を直接伝えに行きたい気持ちです。

すでに知名度もある今泉作品を改めてミニシアター中心でスタートさせたことは実験的な部分もありますが、ミニシアターのほうが支配人の方の顔が見えやすいこともあり、どこまで広げられるか、お客さんを信じてどこまでいけるか、いろいろとチャレンジだなと思っています。

(C)「街の上で」フィルムパートナーズ

汐田さんはいかがですか?

汐田 『佐々木、イン、マイマイン』の話でいうと、本当にゼロからのスタートでした。内山(拓也)監督の『ヴァニタス』(2016)という映画を、PFF(ぴあフィルムフェスティバル)の予備審査で観て、めちゃくちゃよくて。その後の審査でも激推しして、結果、観客賞もとって。『ヴァニタス』を観たときに、「この監督とこんなことを一緒にやったらきっと面白いはずだ」と、考えていたことが、『佐々木、イン、マイマイン』を一緒に作って、実際にそうだったなという手応えはありましたね。

作品の内容に関しては、内山監督と細川(岳)さんのものというか、僕が何かをしたわけではないのですが、内山監督がはじめての映画を撮って、そこから初長編で劇場デビューをして、その作品でいろいろな映画賞を受賞して…というところを一緒に並走できたことは僕自身の経験としても大きかったです。

これからの映画業界のことをどう見ている?

お二人は昨今の映画業界をどう感じていますか?

汐田 みんなこの業界のことを「今いい状態だな」とは感じていないと思っています。プロデューサーによってもさまざまな考えがあると思うのですが、僕の場合は単発単発の作品で戦っていくことがもう限界なのではないかと感じていて。だから、全体のシステムや配信と配給の関わり方、宣伝とSNSの在り方もそうですし、もっというと教育なども興味のある分野なんですけど、まずはインフラをきちんと整えていかなければと思っています。

作品を作っても、ギャンブル性が高すぎるんですよね。インディーズで映画を作っていく中で、市場規模的にも1つの作品が当たれば数年安泰というようなことは基本的に無いですし。「ヒットしている」と言われている作品でも、(制作費と)トントンくらいの興行収入だと思うんです。そういうことを考えると、お客さんとの関係性や、業界全体のマッピングみたいなところを整理整頓していかないと、みんな続けられなくなってしまうのではないかと感じているので、まずはそこからだなという想いが強いです。

そう思うようになったきっかけは?

汐田 広告の仕事などで会社としては成り立っているけれど、映画単体でリクープできている作品が少ないからですね。もちろんそれが出来ている会社もあるのかもしれませんが、純粋に作品の収益だけで回っている会社は少ないと思います。

髭野 映画だけの事業で経営している会社は、大手含めてほぼ無いですよね。ミニシアターも、文化の多様性を維持しようとする考えもあると思うので、「これは上映した方がいい」という作家性の強い作品や若い作り手の作品を上映していく一方で、年に1〜2本でも大ヒット作品がないと経営は厳しいのかなと思います。

汐田 プロデューサーって、良い作品を作ればそれでいいわけではなく、映画業界をどう良くしていくか、まで考えることが必要だと思うんです。本来は作品を作ることが仕事なんですけど、それを大きくはみ出さないと続けていけない感じだなと思っています。映画業界というか、社会全体の話かもしれないですけど。

映画が持つ“流れ”とは?

お二人は、作った映画を広げていくために意識しているところはありますか?

髭野 良い作品を、どう最大化するかというところがポイントだと思っています。『佐々木、イン、マイマイン』もそうですが、ビジュアルだったりキャスティングだったり、良い作品になりそうだというときに、どう裾野を広げていくかというか。それは劇場の選び方もひとつだと思います。

「良い映画ができた」というところから、どう転がっていくかという道筋を考えることが大切で。そこから、宣伝配給をどうしていくかという道筋もプロデューサーは丁寧に考えた方がいいと思っています。

インディーズ映画は特に、メイン館の客層と作品の相性なども重要になってきそうですね。

汐田 規模の小さい映画だと、ほとんどが「結果ヒットしたね」という形なんです。最初から「これは行ける!」と思って計算の上、劇場や配給が動いていることは少ないと思っていて。たまたま決まった劇場をメイン館として戦っていくというか、上映が決まった劇場で勝負していくということが多いと思います。『佐々木、イン、マイマイン』の場合は、新宿武蔵野館さんで内山監督が働いていたという背景もあったので、上映いただけてとてもありがたかったです。

髭野 『佐々木、イン、マイマイン』の場合、新宿武蔵野館さん側が『佐々木』や監督を応援している形が最高だなと思って見ていました。なかなかあそこまでしてくれないよね、という盛り上がりがあったので。

自分も『太陽を掴め』から4~5年が経ち、その積み重ねで見えてきたものもありますし、『街の上で』は今泉監督自身も自信作だとおっしゃってくれていますが、今泉監督がこれまで積み重ねてきた様々な場面を踏まえて、応援されていると感じる瞬間がいくつもありましたね。

汐田 『佐々木、イン、マイマイン』は、新宿武蔵野館さんも配給のパルコさんも、内山監督に対しての期待や信頼感がそもそもめちゃくちゃあったんです。僕自身もそうでしたし。プロデューサーが無理矢理こじ開けていくことも必要だとは思うんですけど、今回は監督起点でどんどんストーリーが広がっていきました。おそらく今後もそういう想いの強い作品はこのような動きをしていくのではないかと思います。

(C)映画「佐々木、イン、マイマイン」

髭野 以前、とある監督のワークショップで、細川岳くんが「学生時代の親友である佐々木くんのエピソードを映画にしたい」と話をしていたことを覚えていたんです。『佐々木、イン、マイマイン』を観て、ベストな形で実現したのではと感じました。自分がプロデューサーとして参加していたら、今の形にはなっていなかったと思うので。改めて、誰がプロデューサーであるかということは大事なことだなと。自主映画などで注目されてから「次」の作品をどう撮れるか、その出会いが監督にとってもプロデューサーにとっても重要ですよね。

汐田 PFFのスカラシップやVIPO(映像産業振興機構)などもありますが、自主で撮れる監督が、プロのスタッフやプロの役者とやったときに、どれくらいパフォーマンスが発揮できてどれくらいやり切れるのか、というところが結構難しいんですよね。プロデューサー側としても監督側としても、「劇場デビューを誰と一緒にするか」というのはとても慎重に考えた方がいいと思います。映画は制作に2年くらい費やすこともありますし、そこでどんな結果が出るかというのは、一生を左右する決断だと思うので。

髭野 だから簡単に「作りなよ」とは言えないですよね。その人にとってベストかどうかとか、どういう規模でやりたいかとか、いろいろ考えてしまいます。

今後企画の持ち込みも増えてくる可能性もあると思うのですが、どんなところをポイントに判断していきますか?

髭野 基本的には、一つの企画を、やると決めたらやり切りたいです。企画を並行して10本も20本も考えるのは不得意で。作品に「流れ」が無いと、企画を考えても成立しないことが多いので難しいと思ってしまいます。

汐田 この監督でこの企画でやるならこうなりそうだから、というイメージを持てるかどうか、そこに乗っていきたいかどうか、その作品に流れがあるのかを見極めるのは大事ですよね。うまくイメージできなかったら、進めても上手くいかないだろうなと思います。例え監督に力があったとしても、それだけではどうにもならないものもありますし。自分が流れを全部作れるだけのパワーがあればいいですけど。

髭野 プレミアの規定や長編監督2作目までしか出せないといった条件の映画祭もあるので、プロデューサーは監督のキャリア形成も考慮して企画を進めていかないといけないのではと思います。濱口(竜介)監督はそれまでの積み重ねもありますが、商業デビュー作である『寝ても覚めても』(2018)がカンヌ国際映画祭のコンペティション部門に選出されたのは素晴らしい出来事でしたね。

汐田 濱口監督作品は既存の枠に全く囚われていないのですごいですよね。でも、そういうことだと思います。映画に「こうしておけば上手くいく」ということはおそらく無いですし。映画業界の形が今の時代の流れにあわなくなってきているので、それぞれが自分たちのやり方を見つけていくことが大切だと感じています。それができないと、どれだけいい作品を作ってもお客さんには届かないし、映画祭にも行けないし、劇場も決まらないと思うんです。

髭野 国内外できちんと評価されれば、ネームバリューのある俳優の方でもその監督の作品に出たいと思うでしょうし、海外でのセールスが決まったり、いい流れが生まれたりするのではないかと。ビジネスも大事ですが、作り手が大事にしているスタンスを保ち続けていることがすごいと思います。

これからの映画作りを考える。映画と社会の関係。

これからの映画を取り巻く環境には、どんなことが必要だと思いますか?

汐田 うちの会社の場合は作品を作り続けないと立ち行かないというような状況ではないので、本当に作りたい作品が無ければ作らなくても良いと思っています。大切なのは、外枠というかハードな部分、仕組みなどをきちんと考えて、自分がやりたいという作品が出てきたときに勝負できる土台を作っておくことですかね。これさえ守っておけば大丈夫というルールが無いので、これからは自分でルールを作れる人が強いというか。仮想ルールを想定して、自分の信じられるやり方でやっていけることが今後大切なのではないかと思います。

髭野 自分が信じているものをカタチにしていくしかないと思います。人によって大事にしていることが違うと思うので「良い・悪い」ではなく、カタチになったものがどう評価されていくのかというところですよね。

今って映画公開の初週が勝負みたいになっているけれど、作品の内容によって盛り上がり方はさまざまですよね。

髭野 個人的には、公開初日はゴールではないと思っています。責任をもって向き合い続ける存在が作品にとって大事なのかなと思います。

汐田 今、「SHAKE」で松竹さんと一緒に仕事をしているんですけど、松竹さんは長年作ってこられた膨大な数の作品があるので、より活用できるのではないかといろいろ考えています。新作を作ることはとてもリスクがあることですし、既にある映画をスクリーンでまだ観たことがない人もいます。そして、そもそも映画は息の長いものであるはずですし、作品ごとにいろいろな可能性があるので、初週で勝負して終わってしまうのはやはり勿体ないですよね。

今後、作品を作るリスクが上がっていくなかで、既にあるものを大切にするというのは大事なことだと思います。映画だけではなく、建築などでもそうで、既にある建物をリノベーションして使った方がお金もかからないしリスクも少ないはずですが、ある時の日本は“スクラップ&ビルド”で新しく建てて崩しての繰り返しでやってきて。今まではそれでうまくいっていたかもしれないのですが、経済成長局面だったからうまくいっていたわけで。いまは建築分野以外も含め“リノベーション”の時代だと思うんです。

映画に限った話ではなく、日本という国の現在の状況や時代について全般に言えることです。すでにあるものをきちんと伝えて最大化していくことをみんな本気でやらないと、今まであったものすら無くなっていってしまう気がしています。

髭野 自分が、“スクラップ&ビルド”の光景が苦手な理由が腑に落ちた気がします。下北沢も再開発が進んでいて、たまに気持ちが沈むんです。今あるもので十分なのに。新しくなったら凄く利便性を感じるという時代ではない気がしていて。

新しく生まれることの良さもあるけど、必要なものがあれば十分豊かだし、変わっていくことへの寂しさや不安もあり、今あるものを最大活用する方がいいのではないかと思ってしまうんですよね。

汐田 特に巨大資本が無い場合の戦い方というか、生活の仕方や暮らし方はそちらになっていくべきだと。僕たちがあてにしている経済性を表す指標も、古い指標ばかりですし、僕たちにとっての経済効果はその経済効果ではないんだよなと思うんです。

ビッグバジェットで新作を作ればお金は生まれるけど、それを今までのコンテンツやミニシアターなど、既にあるものを組み合わせて皆が満足するものを作れたかもしれないですよね。そういう可能性をどんどん切り捨てていきながら、巨額のお金を投入してやっていることを繰り返し過ぎているというか…。

髭野 何か立ち上げる場合、「新しく作る意味」は考えないといけないですね。

汐田 日本は世界的に見ても新作の公開本数が多い国なのですが、みんながこぞってそのレースに参加しなくてもいいのではないかなと思っています。もちろん、誰もが撮れるということは素晴らしいことなのですが。

海外で濱口監督を評価している人も、日本映画が積み上げてきたものを好きな人たちが多いんです。海外の人から見ると、濱口監督が今まで作られてきた日本映画の歴史の延長線上にあるように見えているということが凄く大事で。濱口監督に、過去の名作へのリスペクトがあるからこそ新しいことをやっても届くものになっているのではないかと思います。

 

PROFILE

写真左:髭野純プロデューサー、写真右:汐田海平プロデューサー

汐田 海平(しおた かいへい)
1987年、鳥取県出身。Shake,Tokyo株式会社代表。横浜国立大学卒業後、フリーランスとして映画、CM、PRの企画・制作・プロデュースを行う。国内最大級のクラウドファンディングプラットフォーム MOTIONGALLERYと共同でMOTIONGALLERY STUDIOを運営・プロデュース。2016,2017年はぴあフィルムフェスティバルのセレクションメンバーを務める。2020年、経産省の事業に選出され、日本映画の国際化を推進する若手プロデューサーとしてロッテルダム国際映画祭の「Rotterdam Lab」、ベルリン国際映画祭「EUROPEAN FILM MARKET」に派遣される。プロデュース作は『蜃気楼の舟』『西北西』等。釜山国際映画祭、カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭、ミュンヘン国際映画祭に正式出品。最新プロデュース作は『佐々木、イン、マイマイン』。映画とファンをつなぐSNSコミュニティuniを運営中。
髭野 純(ひげの じゅん)
1988年生まれ、東京都出身。合同会社イハフィルムズ代表。アニメ会社勤務を経て、インディペンデント映画の配給・宣伝業務に携わりながら、映画プロデューサーとして活動。配給を担当した作品に『ひかりの歌』(19/杉田協士監督)、主なプロデュース作品に『太陽を掴め』(16/中村祐太郎監督)、『もみの家』(20/坂本欣弘監督)。今後の参加作品に、『彼女来来』(山西竜矢監督)、『映画:フィッシュマンズ』(手嶋悠貴監督)、『春原さんのうた』(杉田協士監督)など。

お知らせ

◆汐田海平さんプロデュース作品◆
映画『佐々木、イン、マイマイン』
5月19日(水)より配信スタート/DVD発売
https://sasaki-in-my-mind.com/

◆髭野純さんプロデュース作品◆
映画『街の上で』
全国順次公開中!
https://machinouede.com/

photo:西邑匡弘
text&edit:矢部紗耶香