[インタビュー]『佐々木、イン、マイマイン』内山拓也監督×藤原季節×細川岳

インタビュー

新鋭・内山拓也監督による長編映画『佐々木、イン、マイマイン』。俳優・細川岳の高校時代の同級生とのエピソードが原案の本作は誰の心の中にもいる“ヒーロー”との愛おしい時間を描いた青春映画となっている。本作で主人公の石井悠二を演じた藤原季節さん、佐々木を演じた細川岳さん、内山拓也監督に本作の魅力についてお聞きしました。

『佐々木、イン、マイマイン』あらすじ
石井悠二は、俳優になるために上京したものの、鳴かず飛ばずの日々を送っていた。 別れた彼女のユキとの同棲生活も未だに続き、彼女との終わりも受け入れられない。そんなある日、高校の同級生・多田と再会した悠二 は、高校時代に絶対的な存在だった “佐々木”との日々を思い起こす。 常に周りを巻き込みながら、爆発的な生命力で周囲を魅了していく佐々木。だが佐々木の身に降りかかる“ある出来事”をきっかけに、保たれていた友情がしだいに崩れはじめる——。そして現在。 後輩に誘われ、ある舞台に出演することになった悠二だったが、稽古が進むにつれ、舞台の内容が過去と現在とにリンクし始め、加速していく。そんな矢先、数年ぶりに佐々木から着信が入る。悠二の脳内に鳴り響いたのは、「佐々木コール」だった。

自分の内面と向き合いながら衝動的に演じました(細川)

–本作を制作することになった背景を教えてください。
細川岳(以下、細川) もともと小説を書いていたんです。映像にする事から逃げて書いているような感覚があったのですが、その時に内山に作品にかけている思いや映像化が難しいものを映像にしたいと思っていること、佐々木のモデルになった人物について話をしたら、その場で「俺が撮る」と宣言してくれて一緒に作ることになったのが始まりです。

–内山監督は、キャスティングの際にどのようなことを重要視されましたか。
内山拓也(以下、内山) 細川自身が経験してきた自伝みたいな側面は元々あるんですが、それをそのままという訳ではなく、あくまで言いたいこと、伝えたいことを佐々木という人物を通して物語に投影するためにキャラクターを何人か生み出すという形でした。キャスティングの際には、お互いの中で納得していることを共鳴して話せる、投影してくれる人を重視しました。

–細川さんが本作の中で佐々木を演じていらっしゃいますが、演じてみていかがでしたか。
細川 佐々木を演じているときの期間のことをなぜかあまり覚えてなくて……。自分の内面と向き合いながら衝動的に演じていたんだと思います。佐々木としていられたのは、内山や藤原が佐々木としてずっと接してくれたからだと思いますし、僕はそれに乗っかるじゃないけど自分が思う佐々木はこうだ、自分自身はこうだという感情をずっと積み重ねていって演じていたんです。映画が完成して観た時にこんなことしていたっけ、という感覚がありました。

心に囲っていた枠のようなものを意図的に外していきました(藤原)

–藤原さんは悠二を演じられていかがでしたか。
藤原季節(以下、藤原) 悠二という人物が内山さんと細川の投影だという、演じる上で2人の存在を避けて通れないといいますか……。自分自身と向き合うことと2人と向き合うことは真摯にやらないといけないとまず思いました。1人の人間が別の1人の人間と向き合うということはすごく大変なことだし、苦しい作業でもあって。2人のことをもう考えたくないと思った瞬間もありましたし……近すぎて遠すぎて。踏み込んではいけないところもありますし、生い立ちを全て知ることが理解することでもないと思いました。心に囲っていた枠のようなものを意図的に外していかなければならない、その作業が大変でしたね。撮影中も決して仲良く和気あいあいとしていた訳ではなく、終わってからやっと俺たち友だちになれるかもねという。今ではすごく大切な存在です。じゃあまた映画作ろうぜと簡単に言えないくらいに。

–佐々木は、どういう意味でヒーローだったのでしょうか。
内山 伝えたかったのは、分かりやすく佐々木が踊っているシーンというわけではなく、その裏ではどういう気持ちでいるかという部分です。人が生きていく上で、表と裏の顔がみんなあって描きたかったのはそういう名もなき声みたいなところでした。それを佐々木や悠二を通して可視化させたいと。思い出って変化し、忘れていくものでもありますし、思い出す瞬間には美化する部分が必ずあると思うので、そういう意味で佐々木はヒーローだったんだなと思います。

佐々木を通して地続きに何かを思ったり、感じてくれたら(内山)

–大人になるとはどのようなことだと思われますか。
内山 子供のままでいようとか、まだまだ大人になりたくないなとか言える人が大人の人。僕らが大人になったねというのは、大人になっていなく逆説的な気がします。仕事を楽しんで、趣味を謳歌しながら肩の力が抜けて、例えばこのまま遊んでドライブしようぜ、など純粋にそう言える人が大人になっていく階段を登って行ける人かなと思います。

藤原 僕は子どものままでいたくて。『スタンド・バイ・ミー』(86)で主人公たちだけでなく、お兄ちゃんたちも出てくるんですが、彼らは彼らの街の中では自分たちが主人公だと思って生きていて。最後、お兄ちゃんたちに拳銃を向けるシーンがあるんですが、僕はあのシーンをみて拳銃を向けられる側ではなく、ずっと拳銃を向ける側でいたい、線路を歩いている少年のままでいたいと思っています。

細川 お芝居をする上で、役者として大人になりきれない部分も大事だと思っています。周りも大人になっていってる中で、自分の中の子どもの部分を大事にしようと意識しています。

–本作を観る方にメッセージをお願いします。
内山 30歳前後の僕ら世代の方には、内容通り同じ気持ちを感じてくれるかなとは思っています。それより下の年代だとコイツらカッコ悪いけど、こういうの俺はカッコいいと思うよって言ってあげれたらなと思っています。上の世代には、こういう僕らだっていていいですよねという気持ちです。何より、観てくださる方々が佐々木を通して地続きに何かを思ったり、感じてくれたらなと思います。

藤原 本作では、タバコがよく登場するんですが最近はどこに行ってもタバコが吸えなくなっていて。失っていく、消滅していくものへの想いを捧げる作品でもあるなと思いますし、観た上で自分は何を失い、得てきたのだろうと考えると染みるものがある作品だと思います。

細川 苦しんでいる、やりたいことがあるけどうまくいかない、何をやっていいのか分からないとか退屈に思っている人にこそ観て欲しい作品です。人生は退屈じゃなくて、熱を持って生きていれば何かあるというのを感じ取ってもらえると嬉しいです。熱を持って生きて行こうぜということを何より言いたいです。

◯Profile

内山拓也
1992年5月30日生まれ。新潟県出身。
高校卒業後、文化服装学院に入学。在学当時から映像の現場でスタイリストとして携わるが、経験過程で映画に没頭し、学院卒業後スタイリスト業を辞する。その後、監督:中野量太(『浅田家!』『湯を沸かすほどの熱い愛』など)を師事。23歳で初監督作『ヴァニタス』(11月13日公開)を制作。同作品で初の長編にして「PFFアワード2016観客賞」を受賞。近年は、ミュージックビデオや広告映像の他に中編映画『青い、森』(11月6日公開)を監督。

藤原季節
1993年1月18日生まれ。北海道出身。2014年、映画『人狼ゲームビーストサイド』(熊坂出監督)で本格的に俳優デビュー。主な映画出演作に、『ライチ☆光クラブ』(’16/内藤瑛亮監督)、『ケンとカズ』(’16/小路紘史監督)、『全員死刑』(’17/小林勇貴監督)、『止められるか、俺たちを』(’18/白石和彌監督)、『his』(’20/今泉力哉監督)など。現在、ドラマ『監察医 朝顔』(CX系列)が放送中。2021年、主演映画『のさりの島』(山本起也監督)が公開待機中。

細川岳
1992年8月26日生まれ。大阪府出身。 主な出演作に『ガンバレとかうるせぇ』(14/佐藤快磨監督)、『ヴァニタス』(16/内山拓也監督)、『君が世界のはじまり』(20/ふくだももこ監督)、『ソワレ』(20/外山文治監督)、『泣く子はいねぇが』(20/佐藤快磨監督)などがある。『愛うつつ』(葉名恒星監督)、『無頼』(井筒和幸監督)などが公開待機中。

 

『佐々木、イン、マイマイン』

全国公開中

藤原季節 細川岳 萩原みのり 遊屋慎太郎 森優作 小西桜子 河合優実 井口理(King Gnu)鈴木卓爾 村上虹郎
監督:内山拓也 脚本:内山拓也 細川岳
©「佐々木、イン、マイマイン」