『轢き逃げ ー最高の最悪な日ー』中山麻聖×石田法嗣インタビュー ※シネモweb限定公開

インタビュー

水谷豊監督が完全オリジナルで脚本も務め、“人間の奥底にあるもの”を深く繊細に描いた人間ドラマ、映画『轢き逃げ ー最高の最悪な日ー』。本作の主人公・宗像秀一を演じた中山麻聖さんと、森田輝を演じた石田法嗣さんに役との向き合い方や現場でのエピソード、本作の魅力についてお聞きしました。

『轢き逃げ ー最高の最悪な日ー』あらすじ
ある地方都市で起きた交通事故。一人の女性が命を落とし、轢き逃げ事件へと変わる。
車を運転していた青年・宗方秀一(中山麻聖)、助手席に乗っていた親友・森田輝(石田法嗣)。二人は秀一の結婚式の打合せに急いでいた。婚約者は大手ゼネコン副社長の娘・白河早苗(小林涼子)。悲しみにくれる被害者の両親、時山光央(水谷豊)と千鶴子(壇ふみ)。その事件を担当するベテラン刑事・柳公三郎(岸部一徳)と新米刑事・前田俊(毎熊克哉)。平穏な日常から否応なく事件に巻き込まれ、それぞれの人生が複雑に絡み合い、抱える心情が浮き彫りになっていく。
彼らの心の奥底に何があったのか?何が生まれたのか?
その悲劇の先に、彼らは何を見つけられるのか?

すごい作品に決まってしまった(中山)

−−本作への出演が決まった時のお気持ちを教えてください。

中山麻聖(以下、中山) 素直にすごく嬉しかったですね。台本をいただいて、監督が水谷さんであることと、内容を知って「すごい作品に決まってしまった」と。嬉しくもあり、ドキドキもありという感じでした。

石田法嗣(以下、石田) 僕もすごく嬉しかったです。嬉しかった半面、台本を読んで、頂いた役をどうやって表現していこうかと。責任と不安も同時に感じました。

−−それぞれ、役とはどのように向き合っていきましたか?

中山 最初は「秀一という人物像に沿って、このシーンはこう演じよう」などいろいろ考えていたんですけど、ホン読みをした時に監督が「なるべく自分の価値観に固執しないで、フラットな状態できて欲しい」っておっしゃってくださったんです。なので、秀一って人間をあまりガチガチに決めつけないようにしていました。

−−石田さんはいかがでしたか?

石田 初めてのホン読みの前に、これまでのスタンス通り、ガッチガチに作って、もっていったんです。でも、監督が思っていた輝と全然違っていて……。途中で監督が「作り上げたものを1回壊して、視野を広げる方向性に持って行ったほうが良いよ」っておっしゃってくださったんです。3回目のホン読みの時に、「やっと光が見えてきたね、がんばろうね」って言ってくださり嬉しかったんですけど、まだ先は長い!と思って(笑)。クランクインあと何日後?って思いながら、ちょっとヒヤヒヤしていたのを思い出します。

−−水谷監督の演出方法ってどんな感じだったのでしょうか?

中山 監督自らが演じて見せてくださったのは今までには無かった演出でした。1回演じてくださったのを、次に自分が演じて。そこから修正するための演出を、1回1回隣に来て肩に手を置いて優しく演出してくださって。

−−学ぶことも多そうですが、緊張しそうですね。

中山 次に自分が演じないといけないのでプレッシャーはかなり大きかったです(笑)。目の前でそうやってお芝居が見れるっていうのはすごくありがたかったですね。それと一番驚いたのは、監督と役者の切り換えの早さです。近くで見ていて「どうやったら出来るのだろう?」と憧れとともに感じました。

−−印象的なシーンやお気に入りのシーンはありますか?

中山 水谷さん演じる時山さんが、娘が轢かれた現場で、地面をクックッって押して、立ち上がり際に、もの悲しげでも虚しいでもない、何とも言えない色々な意味で感じ取れる表情をされるシーンがあって。その表情を現場で見た時に、演者としても、秀一としてもこれは観ない方が良かったかもしれないと思うくらいすごいものを観てしまったっていう感覚になりました。色んな感情が出てくるシーンで、そこが僕はすごく印象に残ってますね。

石田 僕は海に入るところが好きですね。冷たかったけど、すごく楽しかったんです。あの時本当に2人頑張ってたなって思い出すシーンでフラッシュバックします。

中山 あのシーンの2人は、色んな思いを抱えていて、今の状況をその一瞬でも忘れたい、あの時のあの2人にしか出せない、ある意味いろんなことが伝わってくるんじゃないかと思います。

僕は嫉妬することがあんまり無いんですよね(石田)

−−本作は「人間の嫉妬」をテーマにしているとのことでしたが、どんな時に嫉妬が生まれますか?

中山 自分だけ知らなかったり、自分だけ呼ばれてなかったりした時とか。話す相手、俺じゃなかったんじゃんって気付く時とかそうですよね(笑)。そういう小さいことの積み重ねで、嫉妬の気持ちは大きくなっていくのかなと思います。

−−本作を観て、嫉妬も様々な解釈があると感じました。

中山 その気持ちに対しての付き合い方だと思います。それこそ劇中でも言っているように、消化するのか、そっち側に流れ込んでしまうのか。自分の考え方1つでその気持ちは変えられると今は思うので、自分がどれを選択するのかだと思いますね。

−−石田さんはいかがですか?

石田 僕は嫉妬することがあんまり無いんですよね。でも強いて言うなら、誘った時、違う人とゴハン行ってたら嫉妬するかな。あれ、俺誘われてないし……って(笑)。

中山 でも、毎熊(克哉)さんとおでん屋さん行ってたじゃん!俺それ知らないもん(笑)。

石田 あ、そうだ!おでん屋さんの話して良いですか?(笑)。

−−気になります(笑)。

石田 毎熊さんとオフの時間が重なって、一緒に明石焼を食べに行ったんです。しばらくして、頼んだ明石焼が出て来たんですけど、2人分ではなく1人分だったんです。次いつ出て来るんだろう?って待ってたんですけど延々に来なくて(笑)。「オーダー忘れてるんじゃないですか?毎熊さん、店長さんに言ってくださいよー!」って言ったら、毎熊さんは「ええ~。だって店長顔怖いから……」って言っていて。「毎熊さんがこの店の中で一番怖いと思うけど!」ってなりました(笑)。

中山 毎熊さん、寡黙な時ってすごいよね(笑)。

石田 素敵なんですけど、やっぱり怖さがあるんですよね。

−−今までの役柄のイメージも凄く強いですしね(笑)。毎熊さんや小林(涼子)さんとの共演はいかがでしたか?

石田 僕は涼子さんとは結構昔から共演していて、夫婦の役もしたことがあったんです。だから今回三角関係になってしまって(笑)。現場で「ん~そっち行ったか!」みたいな話をよくしていました(笑)。

中山 嫉妬!

石田 これか!嫉妬って!(笑)。

−−実際一緒に芝居をしてみていかがでしたか?

中山 僕はお2人とも初共演でしたね。毎熊さんは本当にはじめましてだったんですけど、本当に気さくな方で。1個違いの兄貴なんじゃないかってくらい、フランクにいろいろ話をしてくださったので、共演するシーンがすごく楽しみになりました。涼子ちゃんは、現場に向かう車中で、カラオケで歌うレベルの声量で急にオペラを歌い出したんです(笑)。歌い終わってから「今なんで歌い出したの?」って聞いたら、「実はこの後のシーンで、監督からオペラを歌って欲しいという希望があって、どの歌をどれくらいの声で歌おうか考えてて、急に歌っちゃいました」って言ってて(笑)。なんて面白い人なんだろうってすごく気持ちが和みましたし、そういう所もすごく早苗さんっぽいなって思いました。

−−ほっこりするエピソードですね(笑)。

中山 本当に役との境目がわからないんですよね。今どっちと話してるんだろう?ってくらい。法嗣と話してる時も「本当にそう思っているの?」って探っちゃう部分とかもたまにあったりして(笑)。

−−石田さんのエピソード教えて頂きたいです。

石田 僕は、涼子さんと毎熊さんとゴハンを食べに行った帰り道に、この2人のこと好きだわって思ったところがあったんです。毎熊さんが過去に海外で怖いことがあって、どうやって切り抜けたかを話てくれたんです。

−−気になります(笑)。

石田 毎熊さんがアメリカで、ハーレーに乗った革ジャンの人たちに絡まれて、「俺死ぬ!」って思ったらしいんです。どうやって切り抜けようって考えて、出た言葉が「アイムサムライ」って言ったらしいんです(笑)。そしたら、「オー、サムライ」「ユー、サムライ!」って言って居なくなったんですって(笑)。

−−(笑)。

石田 そこから涼子さんがもう乗っちゃって。「じゃあ海外行って怖い思いをしたら、そういう風に言えばいいんだ!」って、演じ始めて(笑)。毎熊さんもそれにノリ始めて(笑)。その2人を見てて、「ああ、好きだわ」って思ったんです。チャーミングで。

いろんな観点があるので、何度も観て欲しいです(石田)

−−では最後に、本作を観る方にメッセージをお願いします。

中山 フィクションではあるんですけど、登場する7人、被害者と加害者、追う者と追われる者など、7人の登場人物のどの人の視点で見るかで、受ける印象が大きく変わってくる作品だと思います。今回はこの人の視点、次はこの人の視点って観ていただけると、印象が全然変わってくると思います。もし可能であれば何度も観ていただけたら、この映画の奥深さを感じてもらえるんじゃないかと思います。

石田 加害者、被害者、そして巻き込まれた人たちのそれぞれの視点でストーリーが描かれています。いろんな観点があるので、何度も観て欲しいですね。

(写真/山越めぐみ 聞き手・文/矢部紗耶香)

◯PROFILE
中山麻聖(なかやま ませい)
1988年12月25日、東京都出身。04年に映画『機関車先生』でデビュー。12年に主演映画『アノソラノアオ』が公開され、14年には「牙狼<GARO>-魔戒ノ花-」(TX)でTVドラマでも主演を務める。主な出演作に、「江~姫たちの戦国~」(NHK/11)、「美女と男子」(NHK/15)、「警視庁ナシゴレン課」(EX/16)、「べっぴんさん」SP(NHK/17)等。2019年主演映画『牙狼〈GARO〉-月虹ノ旅人-』が公開予定。
石田法嗣(いしだ ほうし)
1990年4月2日、東京都出身。子役としてデビュー。映画『カナリア』(05/毎日映画コンクール・スポニチグランプリ新人賞受賞)に出演し、SPドラマ「火垂るの墓-ほたるのはか-」(NTV/05)で主演を務める。その後、2回の海外留学で視野を広げ、2019年は今作以外に『空母いぶき』『スウィート・ビター・キャンディ』など4作品の公開が決まっている。

轢き逃げ ー最高の最悪な日ー

絶賛公開中!

(C)2019映画「轢き逃げ」製作委員会