『柴公園』綾部真弥監督インタビュー ※シネモweb限定公開

インタビュー

柴犬が繋ぐおっさんの成長物語、映画『柴公園』。笑いあり、犬の癒しありでほっこりと観れるのはもちろんだが、「ドラマの映画版か」と思ったそこのあなたにこそ観て欲しい。ドラマを観ていない方も一本の映画として確実に楽しめる作品になっている。本作の制作秘話や魅力について綾部真弥監督にお聞きしました。

『柴公園』あらすじ
ある街の公園。柴犬を連れてやって来る3人のおっさん、あたるパパ(渋川清彦)、じっちゃんパパ(大西信満)、さちこパパ(ドロンズ石本)は、日々壮大な無駄話を繰り広げていた。ある日、3人の中で唯一独身のあたるパパに恋の予感が。相手は真っ白な柴犬・ポチを連れたポチママ(桜井ユキ)!?もどかしいふたりを応援するじっちゃんパパとさちこパパだったが、あたるパパが謎のイケメン(水野勝)と密会しているのを目撃。イケメンの正体を探るべく、聞き込み調査をするふたりだが、さっぱり要領を得ない。一方、豆柴の一郎をあたるパパに預けていた中年ニートの芝二郎(佐藤二朗)が、そろそろ一郎を返して欲しいとあたるパパに連絡をしてくる…。

ドラマ版とは違う映画だからこそ、よりドラマティックで踏み込んだ作品にしました

–ドラマ版を観ていない方でも、劇場版は楽しめる作品となっていますが、ドラマの映画化という際に気にされた点などはありましたか。

綾部真弥監督(以下、綾部) まずは10話あるドラマを観て頂いた方がより楽しめる作品であること、それに加えて難しい点ではあるんですが映画からでも作品に入れるような、その2つを成立する作品にすることを念頭において制作しました。前半はドラマを観ていた方が中年男3人の掛け合いがいつもと同じで楽しいなと思ってもらいながら初見の方への導入、後半はドラマ版とは違う映画だからこそのよりドラマティックで踏み込んだ作品に仕上がればいいなと……。そういう作品として成立させることには気を使っていました。

–メインの登場人物である渋川さんや桜井さんはこれまでのイメージに反して、コミュニケーションが苦手な役でしたが、演じてもらう際の演出はいかがでしたか。

綾部 渋川さんに関しては、アウトローや強面な役柄がどうしても多いと思うんですね。僕も『ゼニガタ』(18)で初めてご一緒にお仕事をして。渋川さんが演じたのは、非道なヤクザ役だったんですが、現場で普通に話している際に時々ニコニコっと笑う時があって、すごく可愛いんですよ(笑)。こっちも本当に好きになっちゃうなくらいの(笑)。カッコいいし優しいし、いいなぁ~って。『ゼニガタ』では、それを封印していたので。渋川さんみたいな強面の人が、犬を愛でながらニヤッと笑うおじさんを演じるだけで、面白い作品になるなぁ……と。ドラマも含め、この作品に関しては、最初から渋川さんを主役でやりたいというのが出発点でした。桜井さんに関しては、助監督時代何度もご一緒させていただいて。比較的、桜井さんは派手に感情を発散するタイプや気の強い女性をよく演じてられるんですが、すごく豊かな表現力のある方だと知っていて。今回の役を演じたら今まで皆さんが観たことのない桜井ユキをお見せできるんじゃないかなと。一見地味でコミュニケーションが苦手な人物が一歩を不器用にも踏み出す感じがとても似合うと思いましたし、面白くなるなと感じてお願いしました。今、振り返ってみると今作を演じるのはこのお二人以外考えられなかったなと思います。

ワンちゃん達に合わせて撮影していくことで、人間達の芝居も良くなっていきました(笑)

–柴犬がすごく可愛くて表情豊かでした。動物を撮ることの難しさや面白さはどういったところにあるのでしょうか。

綾部 今回の撮影では、基礎的なちょっと待つなど出来る子達ではあったんですが、初の子もいて。動物を扱う際には、全部言っていることを聞くわけではないので、苦戦しながらも、のびのびとこの子達が動いているのをみなさんに届けられたらと思い、撮影していました。無理矢理はめて何かをさせないというかなるべく自由にやってもらう。飼い主に従順な面を表現しつつ、ちょっと自由気ままに。犬の特徴として、洋犬の方がやっぱり飼い主にすごく従順で、和犬の方が結構懐く部分と、自分一人なとこっていうんですかね、自分勝手で自由な部分という差があって(笑)。作品内ではそういう差は出ないように調整していました。脚本にない、急に吠えたりとか急にじゃれ合ったりとか、そういう自然な部分も活かせるように。だから、なるべく自由にやってもらって、「じゃあ、いま座ったから座っているところからスタートしよう!」みたいな犬合わせで現場が動くといいますか(笑)。現場のみんなが犬好き、動物好きの方が多かったので、本当に犬を中心に撮影していくというか(笑)。「いま犬がこういう感じだから、このカットから撮っていこう!」とか。それが最終的にはのびのび活き活きした犬達の表情や仕草として撮れたのが今作でそう言ってもらえる理由だと思います。

–犬合わせで現場が動くというのは大変そうです。

綾部 そうですね。勇気はいることもあるんですけど、犬合わせって(笑)でも、特にメインの男性三人に関しては、犬といる時間がすごく長いので、撮影じゃないときも一緒にいて散歩してもらったり、待ち時間もずっと一緒にいてもらったりして。本当の飼い主と犬という関係になってくるので、その感じが作品にそのまま出るようになったので、それは本当に良かったなと。逆にワンちゃん達に合わせて撮影していくことで、人間達の芝居も良くなるというか(笑)。本当の犬を飼っている人達の雰囲気も出せるようになったんで、それはよかったなと思いますね。

–監督は犬派ですか、猫派ですか?

綾部 断然、犬派なんですよ。猫が……猫アレルギーで(笑)。猫の方がよりフォトジェニックだとは思うんですけど。今は家の問題で、犬を飼えないんですが、元々母親と父親の実家はずーっと犬を飼っている家庭だったので、明らかに犬の方に親近感はありますね。

–犬の中では柴犬がやっぱり一番お好きなんですか。

綾部 一番好きですねー。犬は和犬でも洋犬でもどちらも好きですけど、雑種でも和犬に近い子が好きです。実際に柴犬を飼っていたこともあるので。餌が欲しいときとか散歩がしたいときには懐くんだけど、それ以外自由にやっているよ、みたいなとこが可愛くて(笑)。人間との程よい距離感というか、それは心地いいですよね、柴犬って。

繰り返す毎日が案外一番素敵なんじゃないか

–コミュニケーションが苦手な方が手段としてLINEを使われていたのが印象的でした。

綾部 時代性としてコミュニケーションツールとしてLINEが一番多いと思うんですよ。10代20代から、下手したら50代くらいまで使っていますからね。そこは今の時代に即したツールというのと、登場人物たちの独特の距離感を出す際に、電話とLINEを使い分けることで面白さや心情をうまく表現できるなと思っていました。

–観てのお楽しみなのですが、アナログでロマンチックなシーンもありました。

綾部 あそこは普遍性を(笑)結局、人と人とが友達や恋人になるのでも、やはり会って思いを伝えないことには、次の一歩って中々踏み出せない。やっぱりそこが、なんの表現でも一緒なんですけど、あのシーンは映画という表現の中で一番大切にした箇所ではありますね。勇気を持って一歩踏み出すというか、今まで上手く生きられない部分がある人が、ワンちゃんとともに、一緒に前向きになるというのは、この映画では絶対やりたいなと思っていました。

–監督が映画の世界に飛び込まれたきっかけや理由は何だったんでしょうか。

綾部 ちょっと僕は変わっていて、高校を卒業して4年間フリーターやっていまして。プロの格闘技の選手になりたくて12歳から10年間ずっとやっていたんですけど。22歳で辞めようと思った時に、何の資格も勉強もまともにしたことがない……強いて言えば映画が好きだったんですよ。豊田利晃監督の『アンチェイン』(00)というドキュメンタリー映画がありまして。敗れ続けたボクサーの物語なんですけど、これを観たときに、自分も格闘技で挫折して、一回死んだ身だけど、映画ならこの無念を晴らせるんじゃないか。いまは、まとまった言葉で言えるけど、その時は、もうちょっとぐちゃぐちゃした感情でしたけど。何か生き延びる道はないかと考えてみたときに強いて言えば映画だったという。それで映画の専門学校のパンフレットを見て、見学に行ってみようと行ったら、明日が締め切りです、と。で、今から家に帰って郵送したんじゃ間に合わないというんで、その場でお金だけ払って(笑)。とりあえずやらせてくださいって。それが飛び込んだきっかけで。全然映画を勉強したことなかったんですよ、まともに。で、やってみたら頑張ったら頑張っただけ画に反映される、汗が映る、それが性に合っていたんですかね。なんか頑張って徹夜して小道具作れば、これが画に映るというか……。画に残るというこの魅力に取り憑かれて続けたいと思ったんですよね。でも遅かったですから。プロとしては、25歳とかから始めたんで。だから、どうしようかなと思ってる人がいるんだったら、全然遅くないというか、自分の頑張り次第で成長出来る、前進出来る業界だと思うんで、本っ当にいま人手不足ですから(笑)。本当に若い人がどんどん入ってきてもらいたいなと思いますけどね。自分が映画業界を変えるんだ!というような(笑)、一緒になってやりたいなと思います。

–最後に今作を観る方へメッセージをお願いします。

綾部 大きな事件が起こるわけでもなく、たわいもない日常を描いた作品なんですけど、本当に気軽な気持ちで映画館で観て頂いて、このおじさん達と犬達に癒されながら、日常生活って悪くないなという、繰り返す毎日が案外一番素敵なんじゃないか、幸せなんじゃないか、と思ってもらえたらいいなと思います。

(写真・山越めぐみ 聞き手・文/大山峯正)

『柴公園』

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