[インタビュー] 『愛ちゃん物語♡』大野キャンディス真奈監督 「人間はみんな愛を持っている」

インタビュー

『歴史から消えた小野小町』がカナザワ映画祭や東京学生映画祭で話題となった大野キャンディス真奈監督による長編初監督作品『愛ちゃん物語♡』が7月29日(金)より渋谷シネクイントにて公開となります。今回は大野監督に、2年の構想・製作期間を経て完成させた本作のことをはじめ、表現やものづくりに対する想いなどをお聞きしました。

愛ちゃん物語♡』あらすじ
愛ちゃん(16)は、仕事人間であり毒親の父、鉄男に過度に束縛され、自由を知らずに成長した。父とは一緒に食事もせず、メールだけの仲。友達もおらず、オシャレも知らない愛ちゃんは、ある日偶然、聖子さんと出会う。文化も生活も異なる2人は、一緒に過ごすなかで家族のようで友達のような関係になっていく。
しかし、聖子さんにはある秘密があって…
普通って何?家族って?愛って?ひとりぼっちだった愛ちゃんが見つけた「♡」とは?

大野キャンディス真奈監督

――大野監督は現在大学4年生とのことですが、藝大へ進学したきっかけは?

大野キャンディス真奈監督(以下、大野) 何かを作ることが好きだったので、美術系の学校に進学したいと考えてました。もともとティム・バートン監督が好きで、映画を撮りたいと思っていたこともあって。

――昔から映画は好きでよく観ていたんですか?

大野 お父さんの影響で、古い90年代の映画とかをよく観てました。

――映画を観るだけでなく“作りたい”と思ったきっかけは?

大野 「人に伝えたい!」という想いが生まれたことがきっかけです。『歴史から消えた小野小町』も、旅行で秋田へ行ったときに<小町の郷>を見付けて、「かわいいー!何かありそう!」と思ったんです。その後、小野小町資料館の館長さんに話を聞いて、めちゃくちゃ面白かったのでみんなに伝えたい!と思って、映画を撮ることにしました。

――凄い行動力!『歴史から消えた小野小町』はお一人で作られたんですよね?

大野 そうです。撮りたい!と思ったとき、その場に役者さんが居なかったので、自分で撮って、作っちゃいました。

――今回の初長編映画『愛ちゃん物語♡』の着想は何だったのでしょう?

大野 家庭内でちょっとした揉め事があり、家族の形態って何だろうって思う機会があったんです。そこから「普通って何だろう?家族って何だろう?名前なんて要らないよな」と考えるようになり、脚本を作り始めました。

――ストーリーの内容に対して、ポップで明るい描き方が印象的でした。

大野 悲しい映画を観ると、自分にヒロイン感が増して更に悲しくなってしまうんです。なので、自分が映画を作るなら人を明るくさせたり楽しませたりしたいなと思っていたので、こういう形にしました。もともと私が映画や作品をつくるときは、そういう考えが根源にあるんです。自分達が生まれたこの世界はクレイジーだけど、「どうせ生きるなら楽しもうよ!」みたいな。

――なるほど。そして、主人公の愛ちゃんがとても可愛くて魅力的でした。キャラクターはどう作っていきましたか?

大野 まずはキャラクター像をバーッと書き出しました。そして、「こういう子がこう成長したら面白いよな」って、ストーリーを考えるのと同時進行でキャラクター設定も練っていった感じです。でも、小説みたいに書いていくのではなく、最初に起承転結を考えてからですね。そうすると軸が見えてくるので、ショートストーリーを作ってから、キャラクターを考え、脚本を書きながらどんどん深めていきました。

――脚本の書き方などは学校で学んだんですか?

大野 学校では学んでいないです。『愛ちゃん物語♡』は2作品目なんですけど、(脚本の書き方を)何も知らずに進めていたので、本当にダメダメでした(笑)。書きたい!と思って一気に200ページくらいまで書いてしまったので、書き方を調べてまた1から書き始めて…と、3度手間くらいかけて書いていきました。

――スタッフはどのように集めたのでしょう?

大野 学生なので、学校の友達や友達の友達とかを自分で口説いて集めていきました。カメラマンと美術の方はプロだったんですけど、それ以外はみんな未経験者でしたね。今しかできない映画の現場でした。

愛ちゃん役の坂ノ上茜さん

――愛ちゃん役の坂ノ上茜さんとの出会いはいかがでした?

大野 (坂ノ上さんの)マネージャーさんがたまたま知り合いで、映画を作ることを伝えたらオーディションに参加してくれたんです。オーディションはたくさんの人が参加してくれたんですけど、茜ちゃんの演技の振り幅が凄かったので、今回愛ちゃん役をお願いしました。

――キャストとの関係性はどう築いていったんですか?

大野 最初はお互いぎこちない感じでした(笑)。今回は自主映画だからみんなの意見を取り入れていきたいなって思っていたので、「もっとこうしたい」ということも伝えつつ、たくさん話をしました。自分も正しい映画の作り方はわからなかったので、自分が言ったことだけじゃなくて、茜ちゃんだったらどうするのかを教えて欲しいということも伝え、話をしていきました。

――現場でコミュニケーションをとりながら作っていったんですね。

大野 そうですね。茜ちゃんや(聖子さん役)の黒住(尚生)くんもいろいろ提案してくれて、現場でシーンを追加で撮影することもありました。

――となると、編集のときに大変だったのでは……?

大野 めちゃめちゃ大変で、編集は1年くらいかかりました(笑)。実際に撮った映像を繋げてみると、思っていたものよりも30分くらい長くなっていて……。でも、映画を見ている人に“考える時間”を作りたかったので、いろいろ削ぎ落して、マイナスする作業をしていきました。最初からストーリーの流れや芯は決まっていたんですけど、愛ちゃんと聖子さんの話に集中させようというのは、編集段階で見えてきましたね。

 

――『愛ちゃん物語♡』は、作品内でのフラットな視点がとても魅力的でした。作る際に意識したことがあれば教えてください。

大野 この脚本は3年くらい前から書いていたんですけど、その頃から「その人自身を観ることが大切」だと思っていて。聖子さんは聖子さんという存在のままで、大切な人がいるということをフラットに描きたいと考えていました。今ではLGBTQを発信する機会が増えたからみんなが少しずつ意識して考えるようになっているけれど、本来は「その人自身」をちゃんと見ることが大切だなと。だからどの役もフラットに描いているんです。

――あらすじでは「毒親」と書かれているお父さんも、どこか愛らしさがありました。

大野 みんな表面しか見ていないから怖い!とか恐怖!って思うけど、本当はその人なりの正義があって、愛もあるし、(お父さんも)愛ちゃんのことが大好きだからそうなっちゃう、みたいな。だからみんな愛のあるキャラクターにしてるんです。たぶん人間はそれぞれみんな愛を持っているから。きっといい所があるんだろうなって。

――大野監督は、普段からそういう視点を大事に世の中を見ているんですか?

大野 そうですね。私生活でもそういうことをすごく考えちゃいます。ニュースでは悪い部分だけを映したりすることもあるんですけど、それは一部分で、本質的なところはそれだけではないじゃないですか。みんな愛を持っているし、絶対人間はカワイイって思っているので。

――劇場での公開が決まった今、どんな気持ちですか?

大野 映画を作るなら劇場で公開したいとずっと思っていたので、すごく嬉しいです。HappyHappyHappyって感じで。自主映画なのでみんなにちゃんとお金を払えていないんですけど、それでもいいよいいよって集まってくれる人に対してすごく申し訳なくて。だからせめて劇場で公開したいなと思っていました。

――『愛ちゃん物語♡』を撮ってみて、映画を作っていきたい気持ちは高まりました?

大野 はい!絵を書くことも映画を作ることも自分の根源にあるものは同じなので、これからも作っていきたいです。「絵」は自分の感情とか思考とか、毎日の積み重ねで、「映画」は人に伝えたいことなどから生まれていて、手法が違うだけかなと思っているので。伝えたいことが出来たら、たぶんまた作るんだと思います。

――撮りたい題材やテーマも結構あるんですか?

大野 思ったことを書く癖があるので、ストックやメモは結構ありますね。

――では最後に、大野監督が今後やってみたいことや今興味があることを教えてください。

大野 『愛ちゃん物語♡』を全国で上映したいです。いろんなところでいろんな人に観てもらって、みんなにハッピーになって欲しいなって。絵は毎日クリエイティブするものって考えているので、毎年でも毎月でも展示ができるように、毎日クリエイティブしていたいです。

――そのクリエイティブな発想って、どこから生まれるんですか?

大野 んー、どこだろう?昔は感情が激しかったので、暗い気持ちになったら絵をかいたり脚本を書いたりしていたんですけど、今はニュースとかを見たり、人と喋ったりして、日々の情報の中から生まれていくって感じです。たぶん作ることが根本的に好きだから、脳みその中身を形にしたいんだろうなって。

――次回作も楽しみにしています。ありがとう御座いました!

◯プロフィール

大野キャンディス真奈(おおの・きゃんでぃす・まな)
1998 年 7 月 21 日生まれ。東京藝術大学在学中。
2018 年に処⼥作『歴史から消えた小野小町』が映画祭に受賞し話題になる。現在は映画監督として SHINPA 映画祭など出演、活動をしているほか、ミュージックビデオ(アニメーション)、絵画制作活動、幼稚園でのワークショップなども開催している。

映画『愛ちゃん物語♡』7月29日(金)より全国順次公開

【CAST】
坂ノ上茜
黒住尚生 松村亮 森衣里 林田隆志 西出結 上埜すみれ
竹下かおり 山根真央 大門大洋 及川欽之典 心結 保土田寛
【STAFF】
監督・プロデューサー・脚本・編集:大野キャンディス真奈
撮影:澤木宥吾 小島翔 呉大雅俊 小畑智寛 田村悠
助監督:Ryo Matsumura 竹井啓悟
制作担当:山口小百合
録音:小畑智寛 野木亮太朗
美術:博徒出陣さほこ
スタイリスト:髙橋あみ
音楽:石川柚太 中島直樹 須藤佳帆
ポスターデザイン:古瀬彩香
アソシエイトプロデューサー:Monica 久米修人
共同プロデューサー:和田有啓
製作:「愛ちゃん物語♡」作品チーム
配給:Atemo

 

2021年/ビスタ/5.1ch/DCP/88分
https://aichan.atemo.co.jp/
©「愛ちゃん物語♡」作品チーム

 

(interview&text:矢部紗耶香/photo:斎藤奈津子)