【これからの座談会】vol.1 平成生まれが考えるこれからのコンテンツ 中川龍太郎×内山ありさ×中村好佑

インタビュー

映画を生かし続ける仕組み作り【Sustainable Cinema】の取り組みの一つとして、トミーズアーティストカンパニーのマネージャー宮田雅史さんと一緒に、映画に関わるお仕事をしている人たちにお話を聞く、座談会やトークイベントを行っていきます。第1回目は中川龍太郎監督(Tokyo New Cinema)、内山ありささん(東宝)、中村好佑さん(HJホールディングス / Hulu)にお集りいただき、「平成生まれが考えるこれからのコンテンツ」と題した座談会を行いました。

中川 龍太郎(なかがわ りゅうたろう)
映画監督、脚本家。
1990年生まれ。慶應義塾大学文学部卒。在学中に監督を務めた『愛の小さな歴史』(13)で東京国際映画祭スプラッシュ部門にノミネート。『走れ、絶望に追いつかれない速さで』(14)も同部門にて上映され、2年連続入選を最年少で果たす。『四月の永い夢』(17)は世界4大映画祭のひとつ、モスクワ国際映画祭コンペティション部門に選出され、国際映画批評家連盟賞とロシア映画批評家連盟特別表彰をダブル受賞。松本穂香を主演に迎えた最新作『わたしは光をにぎっている』がモスクワ国際映画祭に特別招待されワールドプレミア上映を果たす。日本では2019年の公開を予定している。詩人としても活動し、やなせたかし主催「詩とファンタジー」年間優秀賞を最年少で受賞(10)。
内山ありさ(うちやま ありさ)
1991年広島県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。2015年東宝入社。映画『浅田家(仮)』が2020年公開予定。
中村 好佑(なかむら こうすけ)
1990年1月30日生まれ。動画配信サービスdTV、UULAを経て、2016年よりHJホールディングスにてHuluオリジナル番組や日本テレビの番組の制作に携わる。2018年に配信したHuluオリジナル「ミス・シャーロック」ではアシスタントプロデューサーを務め東京ドラマアウォード2018「衛星・配信ドラマ部門」の優秀賞、Asian Academy Creative Awards2018の最優秀作品賞を受賞。目標は”心に刺さるコンテンツ”を生み出す制作プロデューサー、”作品をより長く、愛され続けるもの”に育てていく事業プロデューサーになること。

◆みなさんのお仕事について

ーー普段どのようなお仕事をしているのかを教えてください。

中川龍太郎監督(以下、中川) 僕は普段Tokyo New Cinemaという会社に所属して映画を作っています。学生時代に作った映画を評価していただいて、そのまま仲間が作った会社に関わるようになって、ほとんど映画だけを作ってまいりました。

内山ありささん(以下、内山) 私は東宝に入って今年で5年目になります。最初は演劇の部署にいて、去年の6月から映画企画部にいます。

中村好佑さん(以下、中村) 今はHuluのコンテンツ制作部の部署にいて、オリジナルコンテンツの企画プロデュースやアシスタントをやりながら、テレビドラマの製作委員会への参加、またその作品に伴う独占コンテンツ買い付けの調整の仕事をしています。

ーーそれはHuluさん独自の仕事の仕方なのでしょうか?

中村 そうなんですかね?でも、前職は同じく配信事業者のdTVだったんですけど、そこではオリジナル作品の企画だけだったので。Huluに入ってからは宣伝のプランニングも手伝うようになりましたし、二次利用にも携わるようになりました。

中村好佑 さん

中川 全部やってますね。

中村 雑種です(笑)。

中川 なんでもやるのは素晴らしいことですね。Huluで出資して作ったものはHuluで独占で配信されるんですか?

中村 基本その方向で調整しています。

ーー最近は深夜のテレビドラマも配信と組む座組の番組が増えてきましたよね。

中村 増えて来ましたね。ここ、2~3年くらいで。

中川 これまでにないことができる余地がありそうですね。

ーーテレビと配信の良い面を使って、良いものを作って届けていくという感じですかね。

中川 自分もその方法はすごく興味深いなと思っています。映画とはまた別の可能性がありそうですね。

内山 2時間尺の映画がありきで、それのスピンオフとか、番外編とかはありますよね。

中村 そうですね。委員会に参加したり、地上波テレビや映画のスピンオフを製作したり、Huluオリジナル『ミス・シャーロック』(18)みたいなものは、Huluでオリジナルの番組を企画して制作して配信。更に地上波や海外のテレビ局で放送したりと最近はいろいろな形があります。

中川 地上波に売ることもあるのですね。

ーーいろいろと可能性を秘めている感じはありますよね。

内山 何でも出来そう!

◆増え続けている作品数

ーー映画は2013年から日本の公開作品が1000本を越えて、ドラマ、配信まで含めるとオリジナルのコンテンツや作品量はめちゃくちゃ増えていますよね。

中川 これだけ斜陽といわれる業界なのに、作られてる数が増えているのは不思議ですよね。デジタルになったからですかね。

ーー映画を作りやすくなってるけど、作り続けやすくなってるとは限らないですよね。

中川 そうですね。

ーー実際、映画が作られてる現場の様子ってどんな感じなんですか?

中川 僕はフィルムの時代はわからないので比較はできないんですけど、みんな逼迫しながら踏ん張ってくれているのは感じています。こういう環境しか知らないから、良くも悪くもそういうものだと思ってしまっているところもありますが。状況を改善しようと考えている監督もいっぱいいらっしゃいます。自分もそうしていかなくてはと思うと同時に十分に手を打ててない面もあり、ジレンマになっています。

中川龍太郎監督

ーーそれはなぜでしょうか?

中川 環境や条件を改善していくことは絶対に必要なことですが、十分な予算がある現場以外では映画を作れなくなるような状況にはならないでほしいです。多様性を担保していくためにはどうするればいいのか、それはまた別の議論になりますが、同時に考えていきたいところです。

ーーなるほど。

中川 クオリティを上げるためにはどうしても時間がかかってきます。時間をかけるにはお金がかかる。でも、制作期間が2倍になったからといって、2倍クオリティが上がるかといったらそうではないんですよね。もっと何倍もかかって初めて差が見えてくる気もします。

ーーどれくらいのペースで撮っていくのが、中川監督的にはベストなのでしょうか?

中川 今の時点では1年に1本という数字を課してますね。もっというと2年で3本が理想。沢山撮ることには賛否があります。2本の映画をまとめて1本にしたら、スタッフにもっといい環境を用意できますし、スケジュールももう少しゆとりができるかもしれません。だから、そうするべきかと悩みつつも、そのやり方でいくと回収を考えた時にその一本を絶対に外せないというリスクを背負うことにもなります。監督という立場では、そこに関しては複雑な想いを抱いています。

内山 最近は、みんなスマホとかでも簡単に撮れるじゃないですか。だから本数増えてることは良いことでもあるんですけど、映画業界や映画好きの人と喋ってても「あの作品の上映、もう終わってるんだっけ?」っていうのがめちゃくちゃあるんですよね。

ーーそうなんですよね。気付いたらモーニングやレイトショーのみの上映になっていることも。

◆映画ビジネスについて

ーー映画ビジネスのどこかの仕組みやシステムを大きく変えるのは難しいのでしょうか?

中村 配信の部分に関して言うと、DVDの売り上げがちょっと落ちて、配信が伸びて来ているといえども、配信が映像ビジネスの全てを支える中心になることはほぼないかなって思っています。お金の面でも難しいですし、やっぱり昔みたいに、一つのメディアの作品を必ずみんなが観て、それが共通の話題にのぼる、一つのメディアが映像ビジネスを支えきるというのは、今は相当難しくなっていると思うんです。代わりに、配信の作品であろうが、大きな映画作品であろうが、単館の作品であろうが、自主制作作品であろうが、今は、作品一個の熱量に対する口コミのスピードが早いので、そこの垣根はドンドンなくなっていくというか……。どのメディアで伝えるかではなくて、何を伝えたいかが大切になってくるのではないかと。

ーー近年のヒット作品を見てもそう感じますね。

中村 また一方で、ビジネスを整えさえすれば、ものは作りやすくなってきてはいるので、お金を集める方法にだけ特化して量産しちゃえっていう考えの人も出て来る感じがあって。一時的には良いと思うんですけど、ずーっと作品を作り続けていくためには、何か一つこれを伝えたいとか、これで何かを思ってもらいたいみたいなのがないと、その後に繋がっていかないのかなと思います。

内山ありさ さん

中川 自然の流れで、ある程度の数に収まっていくのかなとは思います。

内山 先程中村さんもおっしゃってたんですけど、1本の映画を観に行かせるのって本当に大変だし、それが面白くないと、それは映画にハマってくれないよなって思っていて。だから、面白いものを1本でも増やしたいなっていうのが私の志ではあります。

ーー素敵です。観に行った映画が面白ければ「また映画に行きたい」って思いますよね。

中村 ちょっと気になっていたんですけど、同じくらいの年齢の監督って、今までよりも作品作りだけに関わるのではなくて、ビジネスの側面も鑑みながら作品全体を作り上げるまで携わる方が多くなってきているなっていう印象があるのですが、(中川監督に)何か意識していることとかありますか?

中川 制作費を回収して、次を作るということが簡単ではない時代だからこそ、届けるところまで考える監督が多いんだとは思います。あとは、本来、監督は若くしてなれるものじゃなかったように思います。最近は若い監督がたくさん出てきていますが、ずっと映画だけを撮っていくのかというとそうじゃない人も多いと思います。10年後も作ってる人は半分も居るか居ないかな気もします。作るハードルが下がったぶん、これまで映画を選ばなかったタイプの人が映画制作をしている面もあるのかもしれません。

内山 作りたいものがあるんだけど、1本作っただけじゃダメで。その次の作品を作るために、興行収入をきちんと気にしている若手監督たちが多いかもしれないですね。

ーーそういう考え方が広まって行くと、少し業界も変わってくるのかもしれませんね。

中村 近い世代の人たちは、こだわりのファーストプライオリティを明確に言ってくれるので、頭が良い方が多いなという印象があります。

中川 あんまり賢さばかりが先立ってしまう監督というのもどうかと思いますし、バランスが大切だと思います。監督だけじゃなくて、更に広い視座で統括できるプロデューサーも新しい人が出てくる必要があるのではないでしょうか。

◆映画プロデューサーという職業

ーー確かに。監督に対して、プロデューサーの数って少ないですよね。

中川 才能のある監督や役者がでてきてもプロデューサーが育っていないと、その才能を運用できないので、問題の本質的な解決には繋がりにくいという面もあると感じます。プロデューサーを育てる教育をやらなければいけないと感じます。

ーープロデューサーっていう職業があまり知られていないことも大きいですよね。

中川 実際はとても情熱的で優秀な人がたくさんいるのでしょうが。あくまで印象ですが、アニメはプロデューサー志望のひとも多い気がします。

中村 アニメは多い印象ありますね。

中川 自分の最近の映画はアニメの制作会社の出資で作っています。そういう新規参入はありがたいですよね。

中村 僕もそう思います。

ーーちなみにお二人はどういう経緯でプロデューサーを目指したんですか?

中村 僕は、高校の時にめちゃめちゃ挫折したことがキッカケです。中高生の頃の夢は会社員になることだったんで、指定校推薦とって、いわゆる良い大学いって、父と同じような大学・会社に普通に勤めるんだと思って、生活をしていました。でも、いろいろあって推薦がダメになってから自分の理想とする人生プランが崩れたように感じ、そこで「そもそも普通ってなんだ」って思い始めてしまって…(笑)それまでは、映画やドラマも月並みにしか見ていなかったですけど、そこから真剣に漫画を読んだり、ドラマを観始めたりして。そして、たまたま受かった大学に映像を学べるコースがあったので、足を踏み入れてみたら、作る才能がある人たちと一緒に仕事をしたいと思うようになって、プロデューサーに行き着いたって感じです。

中川 プロデューサーは「なる」というよりは「行き着く」という印象がありますよね。中村さんは素晴らしいかたちで未来を担っていかれると思いますが、行き着くのと同時に目指すという人もたくさん出てきてほしいですね。中村さんとかうっちー(内山)がスタープロデューサーになって、「あの人たちみたいになりたい!」って、プロデューサーを目指すって人が増えるといいんじゃないですか。

ーー内山さんはどういう経緯でプロデューサーに?

内山 私は会社に入れたからなのかなって思っています。今まで自分で映画を撮った事が無かったので、監督をやるっていう考えはなかったし、エントリーシートでは宣伝部に入りたいって書いてたんです。

◆映画宣伝について

ーーそうだったんですね。宣伝も映画については大切なポジションですよね。

中村 宣伝は非常に重要なポジションだと思います。ただ、今どこも直面しているのは、宣伝の方の負担、作業量がドンドン増えてきてしまっている。それが辛すぎる。っていう問題がある気がします。

ーーあと、宣伝は仕事量に対して、人が少ないですよね。

内山 昨年度の映画公開本数は日本で約1200本。単純に数が多いんです…。

中村 回さなきゃいけないですもんね。

中川 あたたかい絆とか、連携があると良いですよね。『四月の永い夢』のときは思ったことはなるべく伝えるようにしました。最終的な判断は任せつつも。

内山中村 わかる。

ーー『四月の永い夢』のプレス資料からも、熱がすごく伝わりました。

中川 結局それも連帯で、みんなで仲良くが一番良いんですよね。相手側の仕事を尊重しながら意見交換はあったほうがいいかな、と個人的には思いました。

◆これからの映画に必要なこと

中村 学生時代に知りたかったのが、劇場映画の興行収入の仕組みです(笑)。仮にも自主映画を制作して、プロデューサーを多く輩出しているゼミだったんですけど、そもそも映像ビジネスについては何も学ばなかったし、何も知らなかったんです。

内山 確かに、興行収入を気にするようになったのは就活と、会社に入ってからかもしれません。あと、映画の幹事会社は必ず見て気にしています。作品のカラーが一番出るんですよ。

ーーなるほど。あと、動員と興収の分析、マーケティングみたいなところももっとやっていくべきだなとは思うんです。

中村 あと最近ちょっと思っているんですけど、(映画って)敷居高すぎません?(笑)

一同 高すぎる!!!

中村 各部背負っている責任が大きいから、みんなカッチリやらなきゃなって思ってるところもあると思うんですけど。普通にもっと自主映画みたいに気楽に、監督とプロデューサーと制作進行と、俳優とスタッフみんなでやりましょう!作品盛り上げていきましょう!みたいな。一つのチームだから「宣伝も頑張ってやろう!」とか、「稼働するよ!」「手伝うよ!」とか、そんな感じでできると良いなって。

中川 その通りですね。今も平行して自主制作でも映画を作っています。商業映画とよばれるものであってもオリジナル作品の本質は自主制作だと感じます。

ーーこれから、映画を取り巻く環境はどうなって行くと思いますか?

内山 VHSが出た当時「映画がもう家で観れてしまう!」と業界はザワついたらしいのですが、今も映画館は無くなってないから、そこはまだ希望な気がします。わざわざ外に出て映画館へ行ってお金払わないとできないことと、家で見れてしまうことの差が、良い意味でも悪い意味でもある気がしていて。

中川 TOHOシネマズも映画館にアトラクションとか作ったら良いんじゃない?

一同 (笑)。

 

【写真】
堀内彩香
1989年生まれ。新潟県出身。大学で写真を学んだ後、スタジオに入社。カメラマン羽田誠氏のアシスタントを経て、2016年独立。
https://www.horiuchiayaka.com/
【企画者】
宮田雅史
1990年生まれ。トミーズアーティストカンパニーにてマネージャーとしてタレントを担当。映画、演劇、俳優について勉強中。
矢部紗耶香
WEB広告、音楽会社、映画会社勤務を経て、現在は編集・ライター・企画・宣伝業。TAMA映画祭や夜空と交差する森の映画祭などのOG。cinefilで「つくる」ひとたちを連載中。