『真っ赤な星』桜井ユキ×井樫彩監督インタビュー ※WEB限定公開

インタビュー

新鋭・井樫彩監督のオリジナル最新作『真っ赤な星』。14歳の陽と27歳の弥生が関わり合うことで生まれる心の変化や葛藤などを描いた本作。弥生を演じた桜井ユキさん、井樫彩監督に魅力についてお聞きしました。

『真っ赤な星』あらすじ
片田舎の病院に怪我をして入院した14歳の陽(小松未来)。彼女はいつも優しく接してくれていた看護師の弥生(桜井ユキ)に対し、特別な感情を抱き始めていた。だが退院の日、弥生が突然看護師を辞めたことを知る。1年後、陽は買い物の帰り道で偶然弥生と再会する。そこにいたのは、過去の優しい面影はなく、男たちに身体を売ることで生計を立てている弥生だった。再会後、学校にも家にも居場所がない陽は、吸い寄せられるように弥生に近づく。一方、弥生には誰にも言えない悲しい過去があった。満たされない現実を冷めた目で見つめ、互いに孤独を抱えるふたりは、弥生のアパートで心の空白を埋める生活を始めていく−−。

自分の中にスッと入り込んでいく感覚でした(桜井)

−−井樫監督が主な登場人物である陽を14歳、弥生を27歳に設定した理由を教えてください。

井樫彩(以下、井樫) 最初は3つ差くらいの設定でホンを書いていて……。その中で、年齢差のある方が中学生の先輩に対して感じるような憧れや好きという感情が表現しやすいと感じたんです。14歳というのは高校生とはまた違って大人になる過程のとても曖昧な時期で。そんな多感な時期の子が20代後半のこれからの人生を決める年齢である大人と関わることでお互いに発見や気づきがある面白い組み合わせだなと。

−−桜井さんは脚本を読まれて、また弥生を演じられていかがでしたか。

桜井ユキ(以下、桜井) オリジナル脚本ということは聞いていたので、初稿をいただいてから監督の感性が知りたいと思って読み進めていました。当時21歳で書かれていた作品とは思えない人物を深く表現する感覚の鋭さや豊かさに驚かされました。ストーリーに関しては、読んでいる最中に一度も客観視せず読み通したのをすごく覚えています。フィクションの物語を観たり読む時には、客観視したり物語に疑問が湧いたりすることがあるんですが、それがなかったんです。自分の中にスッと入り込んでいく感覚で。撮影が始まって、さらに弥生が純粋に自分の中に入ってきて同化していきました。

純度が高いのは14歳の少女から発せられる言葉(桜井)

−−作中で、陽が弥生の恋人である賢吾に「弥生からもう奪わないで!」と言うシーンがありましたがなぜ「奪う」という表現を使われたのでしょうか。陽は弥生が何かを持っていてそれが奪われるという感覚だったのかなと。「取らないで」とか「苦しめないで」とかではなく「奪わないで」という表現が私の中で引っかかっているんですが。

井樫 陽の「奪わないで」というセリフを直訳すれば「傷つけないで」ということだと思うんです。陽が弥生と同じ時間を過ごしていく中で弥生が色んなものを失っていったのを何となく彼女なりに感じ取っている。これ以上、弥生がそんなことを続けていたら壊れてしまうという思いが陽の中にあって。撮影前に桜井さんにスーザン・マイノットの『欲望』を読んでほしいと渡したんです。女の人が色んな男の人と付き合って、その男たちのことを淡々と書かれている短編集なんですが、共通しているのが抱かれている瞬間は「愛しているよ、好きだよ」と彼は言ったけども、次の瞬間に彼は私のことを見ていないということで。その感覚に近いものを弥生が内在している。弥生自身が搾取されているということを陽が無意識のうちに感じ取って発したセリフだと思うんです。

−−弥生は奪われている感覚ではないと思って観ていたのですが、桜井さんはそのシーンに関して演じられていかがでしたか。

桜井 弥生が「奪われている」と感じているとは全く思わず演じていました。あれは陽から生まれた感情と言葉であって。14歳の彼女が持っているキャパ内でのマックスの言葉を使ったと思うんです。もっと語彙量があれば、もしかしたらニュアンスが違う、本当は違う意味だったかもしれないけど。溢れ出した彼女の「嫌だ!」という感情を表現した素直な言葉だと感じました。弥生も陽から発せられる言葉を同じ感情ではなくとも理解はしていると思って演じていました。

−−大人は「交換」として、子どもは「贈与」として見ているということなんですかね。

桜井 そうですね。その視点の違いが面白いというか。14年間で得られる経験値の中で生まれる言葉と、経験している人から発せられる言葉とでの選択される言葉の違いはあるなと思いました。その中でも、純度が高いのは14歳の少女から発せられる言葉だったり。

磁石じゃないですけど、反発し合いながら求めてしまっている(井樫)

−−弥生はどのような想いで陽と関わっていたんでしょうか。惹かれていたんでしょうか。

井樫 弥生にとって陽は、テリトリー内に私の何かを揺るがす異物が入って来た!という感覚なのかなと。自分の生活に陽という要素が入って来たときに、異物反応みたいなものを感じていて。徐々に陽が浸透していく中で、揺らいでしまったら自身が崩壊してしまう怖さも感じ取っている。そのせめぎ合いの中で自分が見ないとしていたものを見つめ直す弥生の脆さや素直さが出てくる。だから最後の最後まで惹かれてはいるんですけど、好きとか愛とかそういったものとはまたちょっと違う。磁石じゃないですけど、反発し合いながら求めてしまっている。でもそれはすごく自然な状態だなって思います。

−−弥生と賢吾の車内でのキスシーンが長く感じたんですが。あのシーンの長さには意味があるのかなと感じていました。

井樫 長かったですかね(笑)綺麗だなって(笑)普段は他の作品のカットを真似したいなとかは全然ないんですけど、あそこだけは唯一グザヴィエ・ドラン『わたしはロランス』(12)をオマージュしたシーンで。主人公が奥さんもいる中で、自分は女になりたいと葛藤していく物語の中で、奥さんに主人公が車に乗っていて「実は女になりたい」と打ち明けながら洗車機に入っていくシーンがあるんです。車内が暗くなっていって……。このシーンはそういう風にやりたいと思っていて。直接的ではなく、2人がトンネルに入っていってシルエットでみせるみたいな。弥生と賢吾の関係は不倫で。表立ってできないということもそのカットで表現したシーンでした。

−−読者へメッセージをお願いします。

桜井 心を空っぽにして肌で感じて欲しいです。性別や年齢でラストシーンの解釈も違ってくると思います。ぜひ劇場に足を運んで登場人物たちの様々な感情を感じ取って欲しいです。

井樫 本作は誰しもが持つ問題とリンクすると思っていて。『真っ赤な星』というタイトルは、星の色と言ったら大体、白か黄色を思い浮かべますが今作は赤色。見上げても手が届かないそんな星々の中で、一つだけ赤く光る星がある。それが陽にとっての弥生であり逆も然りだと思うんです。先ほど桜井さんにも言っていただきましたが、とにかく肌で感じ取って欲しいです。ぜひ観に来てください!

◯PROFILE
井樫彩
1996年生まれ、北海道出身。学生時代に卒業製作として制作した『溶ける』が、ぴあフィルム・フェスティバル、なら国際映画祭など国内各種映画祭で受賞し、第70回カンヌ国際映画祭正式出品を果たす。今作『真っ赤な星』が初長編作品、劇場デビュー作となる。山戸結希プロデュースによるオムニバス映画『21世紀の女の子』に参加。19年2/8より全国順次公開。
桜井ユキ
1987年2月10日生まれ、福岡県出身。2017年公開の『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY-リミット・オブ・スリーピング ビューティ』(二宮健監督)で初主演を飾る。以降、『娼年』(18/三浦大輔監督)、『サクラんぼの恋』(18/古厩智之監督)、『スマホを落としただけなのに』(18/中田秀夫監督)、ドラマ『モンテ・クリスト伯-華麗なる復讐-』(CX)ほか出演作が続く。映画『柴公園』が6月14日に公開。

真っ赤な星

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© 「真っ赤な星」製作委員会

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(写真・山越めぐみ 文・大山峯正)