『小さな恋のうた』佐野勇斗×橋本光二郎監督 ※シネモweb限定公開

インタビュー

世代や性別を問わず、今なお歌い継がれているMONGOL800の名曲から誕生した一本の映画『小さな恋のうた』。主人公の真栄城亮多を演じた佐野勇斗さんと、橋本光二郎監督に、本作への想いや、実際に沖縄に行って感じたこと、半年以上かけて行われたバンド練習から生まれたシーンや関係などについてお聞きしました。

小さな恋のうた』あらすじ
沖縄の小さな町。日本とアメリカ、フェンスで隔てられた二つの「国」が存在する場所。そこでは、ある高校生バンドが熱い人気を集めていた。自作の歌を歌いこなし、観るものを熱狂させるその実力で、東京のレーベルからスカウトを受け、なんとプロデビューが決まる。しかし、喜びの絶頂で盛り上がる彼らに一台の車が突っ込み、バンドは行く先を見失ってしまう。そこに現れた、一曲のデモテープと、米軍基地に住む一人の少女。それらによって、止まった時計の針は前に進み始める。フェンスの向こう側に友の“想い”を届けるため、彼らは再び楽器を手に取り立ち上がる―。

監督が言ってくれるようにやっていけば“間違いない”っていう安心感や信頼感がありました(佐野)

−−お二人は『羊と鋼の森』(18)でもご一緒されていますが、改めて橋本監督から見た佐野さんの魅力を教えてください。

本光二郎(以下、橋本) 現場にいると本当に明るくて、あっけらかんとやっている風に見せかけて、座長としてちゃんと周りを見て気を使っていたりするんです。楽しそうにしているその雰囲気が、もう亮多というキャラクターでしたし、その有り様を体現してくれたからこそ、周りとの距離感も含め役柄を掴んでくれました。その明るさに、この映画はすごく救われているなと思います。

−−橋本監督の現場の雰囲気や演出はいかがでしたか。

佐野勇斗(以下、佐野) すごく優しい方で話しやすいですし、普段の会話とかもちゃんと聞いてくださるし、ちゃんとツッコんでくださって(笑)。接しやすい関係性を監督が作ってくださったから、監督が言ってくれるようにやっていけば“間違いない”っていう安心感や信頼感がありました。だから僕はすごく演じやすかったです。

−−今回は約半年間ほどバンドの練習期間があったとのことですが、どのような時間でしたか?

橋本 初めて会う人同士もいる中で、バンドでのそれぞれの立場みたいなところも含め、徐々に距離感が縮まっていきました。劇中でも、高校に入学し、軽音部に入って一緒に音楽をやって、ぶつかったり笑ったりしながら、徐々にバンドになっていくんですけど……その姿と同じような感じがしたんです。5人が関係性を作り上げていく中で、みんな多少自分のキャラに寄せている所もあっただろうし、それぞれ役として無ければならない部分を築くことができる時間があったことは、すごく幸せなことだったと思います。

練習を見ていく中で「こういう感じなんだなー」っていうのを、僕自身が勉強させてもらいました(佐野)

−−監督もバンドの練習は頻繁に見に行っていたのでしょうか?

橋本 そうですね。でも、あまり監督が行くと何かみんな萎縮しちゃうこともあるじゃないですか(笑)。だから行きたいんだけど、あんまり顔出さない方が良いかなって思う時もありました(笑)。(山田)杏奈ちゃんみたいに、あんまり慣れていない人がバンドに入って、楽器に触れて、慣れて、どんどん形になっていく姿とか、見に行くと勉強になるところもあったりして。練習を見ていく中で「こういう感じなんだなー」っていうのを、僕自身が勉強させてもらいました。

−−バンドにとっても、映画にとっても大切な練習期間だったのですね

橋本 最初にみんながギターを渡される、儀式みたいな1日があって。こう押さえて、こう持って、ストラップの長さはこれくらいで……とかやって。最後にアンプに繋いでみんなが鳴らした時、「おお~~~!!!」って顔をしたんです。その顔がすごく良かったので、舞(山田)がギャーンって初めてギターを鳴らすシーンが面白いんじゃないかなと思い、作品に取り入れました。

−−今回撮影で実際に沖縄の空気に触れてみて、どのようなことを感じましたか?

佐野 世界中どこへ行っても時間の流れって同じだと思うんですけど、なぜか沖縄はゆっくり感じました。僕は上京して4年くらい経つんですけど、東京はずっと忙しなく感じていたんですが、沖縄は地元に帰ったような気持ちになれました。東京で台本を読んでいた時と、沖縄の現場に入ってからもう1回読んでみた時では少し感覚が違ったというか、亮多という役にスッと入りやすかったです。

橋本 映画の中に出てくる米軍基地のことも、東京にいるとニュースの「基地反対」という話題としての情報を受け取っているだけでした。でも、沖縄に行くと当たり前にフェンスがあるし、スーパーやデパートに行くと外国の人も普通に買い物している。だからといってケンカが起こるわけでも無いし、基地の中からの視点も含めて、「当たり前にそこに存在する」ということは今回の物語のテーマの1つでもあると感じました。本当に行ってみないとなかなか分からないことだなと思います。実際に沖縄に行って、この脚本に描かれている世界の実情というのを、僕自身もリアルに感じました。

観てくれる方や現場の地元の方など応援してくれる方が喜んでくれるからもっとお芝居をやりたいと思っています(佐野)

−−「人はどうして歌うのか」「何のために歌うのか」をテーマにして作ったと話されていましたが、お二人は本作を通して、改めて「映画を撮ること」や「お芝居をすること」について、考えたことはありましたか?

佐野 正直まだまだ全然お芝居のことはわからないし、どちらかというとまだ苦手意識が強いんです。昔から目立ったりすることは好きだったんですけど、演じる際の技術的な面も含めまだまだ学びが必要だと感じていて。観てくれる方や現場の地元の方など応援してくれる方が喜んでくれるからもっとお芝居をやりたいと思っています。歌もダンスもどちらかと言えば苦手なジャンルに入るのですが、M!LKで歌ったり踊ったりするのも、見てくれるファンの方が喜んでくれたり、「いつも大変だけど佐野くんを見ると元気をもらえる」と言ってくれる方がいるから、僕はやっていけています。もちろん、今回みたいにキャスト同士で仲良くなれたりするのは楽しいですけど、得意なことではないので……。やっぱり喜んでくれる方がいるからです。

橋本 中学校の頃から映画をよく観ていて、大袈裟な言い方をすると“救われた”っていう気持ちがあって、そのまま映画の世界に入ってきてずっとやっているんです。映画は色んなジャンルがあると思うんですけど、特に人間ドラマの、人間を肯定した作品に救われて、背中を押してもらってここまで来れたので。自分の作った作品が1歩でも前に進めるような、後ろから軽く背中を押せるような存在であって欲しいなと思っています。映画を観終わった方が外に出る時に、「あと一週間頑張ってみよう」という気持ちになるような想いで、常に映画を作っています。

(写真/山越めぐみ 聞き手・文/矢部紗耶香)
◯PROFILE
佐野 勇斗(さの はやと)
1998年3月23日生まれ。愛知県出身。2015年、『くちびるに歌を』で俳優デビュー。その後「砂の塔~知りすぎた隣人」(TBS)、「トドメの接吻」(NTV)、『ちはやふる —結び—』(18)、『羊と鋼の森』(18)などに出演し注目を集める。『青夏 きみに恋した30日』(18)で初主演を果たして以降、又吉直樹原作の『凜 —りん—』(19)、本作とたて続けに主演を務める。公開待機作に『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』(19年9月6日(金)全国公開)がある。また、7人組ボーカルダンスユニットのM!LKのメンバーとしても活動中。
橋本 光二郎監督(はしもと こうじろう)
1973年生まれ。東京都出身。日本映画学校(現・日本映画大学)卒業。助監督として『あ、春』(98)『風花』(01)『陰陽師』(01)『おくりびと』(08)『あの空をおぼえてる』(08)など数々の作品に参加し、相米慎二監督、滝田洋二郎監督、冨樫森監督らに師事しながらキャリアを積む。2010年に深夜ドラマ「BUNGO -日本文学シネマ-「冨美子の足」」で監督デビュー。2011年に河合勇人監督らとともに演出を担当した連続ドラマ「鈴木先生」(TX)は高い評価を受け、ギャラクシー賞や日本民間放送連盟賞テレビドラマ部門最優秀賞などに輝く。2015年に土屋太鳳・山﨑賢人主演の『orange-オレンジ-』で長編映画を初監督すると、監督第二作『羊と鋼の森』(18)では再び山﨑賢人と組み、第13回本屋大賞を受賞した同名小説を映画化。さらに中島美嘉の名曲をモチーフとしたラブストーリー『雪の華』(19)では、登坂広臣(三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBE)&中条あやみを主演にむかえてフィンランドでのロケを敢行し、大ヒットを記録。次々と話題作を手がけている。

 

小さな恋のうた

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©︎2019「小さな恋のうた」製作委員会

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