[インタビュー] 『閉鎖病棟 -それぞれの朝-』 綾野剛、小松菜奈、平山秀幸監督 ※webオリジナル

インタビュー

『愛を乞うひと』(98)で数々の映画賞を受賞した平山秀幸監督が、長年の年月をかけ脚本を執筆し、映画化が実現した『閉鎖病棟 -それぞれの朝-』。今回初めて脚本と監督に挑まれた平山秀幸監督と、幻聴が聴こえるようになり精神科病院に入院することになった塚本中弥(チュウさん)を演じた綾野剛さんと、DVが原因で精神科病院に入院することになった女子高生の島崎由紀を演じた小松菜奈さんに、現場でのエピソードや作品への想いについてお聞きしました。

閉鎖病棟』あらすじ
長野県のとある精神科病院。それぞれの過去を背負った患者たちがいる。
死刑となりながら、死刑執行が失敗し生き永らえた梶木秀丸(笑福亭鶴瓶)。サラリーマンだったが幻聴が聴こえ暴れ出すようになり、妹夫婦から疎んじられているチュウさん(綾野剛)。不登校が原因で通院してくる女子高生、由紀(小松菜奈)。彼らは家族や世間から遠ざけられても、明るく生きようとしていた。そんな日常を一変させる事件が院内で起こった。加害者は秀丸。彼を犯行に駆り立てた理由とは――?

全ての部署に向ける愛のある眼差しが、
全てをつかさどっていたなと思っています(綾野)

––平山監督は今回初めて脚本づくりもされたということで、いかがでしたか?

平山秀幸監督(以下、平山) どこからかオファーがあって、これを脚本にしてくださいということではなく、まだ映画化のお話が無い時に、自分の宿題として、習作として書き始めた脚本だったんです。だからその分、自分の想いがたくさんあるわけですよ。シナリオライターはセリフをいっぱい書く、映画の演出はなるべくセリフを落としていくという…。このギャップがすごくしんどくて、面白かったです。一人の人間の中で、脚本家と演出家がいつも喧嘩している感じでした(笑)。

––綾野さんと小松さんは、オファーを頂いた時、作品のどんな所に魅力を感じましたか?

綾野剛(以下、綾野) 平山監督が普段映画を撮るときは他に脚本家がいて、平山監督とタッグを組むという印象があったんです。でも今回は、監督が脚本も書かれたので、本作に対する思い入れとか、覚悟のようなものをすごく感じまして。そこにとても魅力を感じ、是非出演したいなと思いました。

小松菜奈(以下、小松) 私は鶴瓶さんも綾野さんも平山監督もご一緒するのははじめてでしたので、純粋に一緒に作品を作ったらどうなるんだろうという楽しみがありました。そして、台本を読んだ時、由紀が持っている“小さな光”みたいなものを、私がどうやって見付けることができて、それをちゃんと演じることで出してあげられるか…ということを考えました。由紀という役は苦しくて、過酷なバックグラウンドがあったので、そういった面ですごく挑戦的な役でもありました。

––現場の雰囲気はどのような感じでしたか?

綾野 すごく暖かくて、とてもいい雰囲気の現場でした。それは、監督ご自身が醸し出す温かみや佇まいからだと思うんですよね。俳優ファーストでもあるし、スタッフファーストでもある方なので。全ての部署に向ける愛のある眼差しが、全てをつかさどっていたなと思っています。

––平山組に参加して、感じたことや新たに気付いたことはありましたか?

綾野 過去の作品を観ていても感じるのですが、平山監督の作品は、ただ美しいだけではなく、いろんなことを辛辣に描かれているんですよね。なので、監督が社会に対して考えていることとか、監督の優しさや愛みたいなものが、全部作品に投影されたらいいなと思いました。平山監督が持っているエンジンが、この作品を支えることになるだろうなという感覚が(現場に)入った日からあったので。

孤独になる時間があったからこそ、
みんなで居る時間はすごく暖かくて愛おしい時間でした(小松)

––平山監督は、原作に思い入れがあるからこそ、苦労した点もあったのでしょうか?

平山 原作で書かれているさまざまなことから20年くらい経って、社会的にもいろんなことがあったのかもしれないですけど、逆に、窮屈さは増えているような感じもするんですよね。「統合失調症」についても調べていくうちに、他人ごとでは無いと感じました。

––そういうところも、脚本や演出で作品に反映させていったのですね。

平山 こういうテーマの作品なので、俳優部は、表現の在り様がものすごく難しかったと思います。あと、みなさんそれぞれ、存在の凄さがあると感じました。予期せぬいろんなこともいっぱいあったし、自分では想像していなかった誰かが居たりもして。それは「監督冥利に尽きる」という感じもありましたね。

––小松さん演じる由紀の明け方のシーンが印象的でした。センシティブなシーンも多い中、小松さんはどう由紀と向き合っていったのでしょうか?

小松 もちろん、現場ではテンション高くはいられなかったです。あまり笑顔でいてはいけないと思いながら孤独になる時間があったからこそ、みんなで居る時間はすごく暖かくて愛おしい時間でした。きっと由紀にとっても、そういう時間が欲しかったんだなってその時に感じましたね。

––演じながらも、病院の中と外とで感じる違いはあったのでしょうか?

小松 なんとなく周りの目は気になるというか、みんなで外に出る時は少し緊張する感覚はありました。でも、みんなで外に買い物に行くシーンは、由紀の中でも「戻ってこれるところがあるんだ」と思えた大切なシーンでもあったと思います。寄り添ったり、一緒にいる空間がなんか幸せって感じたり、そんな部分を感じながらお芝居をしていました。公園のシーンではみんなで遊びましたよね(笑)。

綾野 公園でのあの時間は、ものすごく大切な時間だったと思います。閉鎖病棟に居ながらも心は貧困していないんですよね。

––あのシーンは本当にあたたかくて、ホッとするような感覚がありました

綾野 僕は毎日、会える時間は病棟の子供たちに会いに行っていたんです。何かを抽出するとかではなくて、彼らの眼差しのようなものをおすそ分けしてもらっていたという感覚でした。監督も、「俳優部が作品や役に飲み込まれて、苦しんでほしくない」「自分のことを守ってほしい」って現場でおっしゃっていたんです。だから、チュウさんの母体である、綾野剛の部分をどう貧困させずに、最低限の豊かさを持たせられるか、ということは常に考えていましたね。

いろんな受け取り方があると思いますが、
それは全て観た方の判断で良いと思っています(平山)

––印象的なセリフやシーンもたくさんありましたが、特に記憶に残っているシーンはありますか?

綾野 予告編でも使われていますけど、由紀とチュウさんが初めて真正面で向き合って「事情を抱えていない人間なんていないからね」っていうシーンです。彼女の眼差しをすごくビビットに感じることができて、「ああ、もうこの子は大丈夫なんだな」って思えたので。あの時の由紀の表情はすごく印象に残っていますし、この映画の一番のスイッチ所だったのかもしれないと感じました。

小松 そのシーンのことは私も覚えています。そういう風にちゃんと由紀の変化を見てくださっていたのは、本当にうれしかったですね。

––最後に、平山監督から本作を観る方へコメントをお願いいたします。

平山 10年以上前からやりたいと思っていた原作だったんですけど、思いついた1年後に映画化されていたら、たぶんこういう作品になっていなかったと思います。『閉鎖病棟 -それぞれの朝-』は、2019年だからこそ出来た作品だと思います。やさしさだったり、厳しさだったり、いろんな受け取り方があると思いますが、それは全て観た方の判断で良いと思っています。

〇profile
平山秀幸(ひらやま・ひでゆき)
1950年9月18日生まれ。福岡県北九州市出身。日本大学芸術学部放送学科卒業。『マリアの胃袋』で監督デビュー。 『ザ・中学教師』で日本映画監督協会新人賞を受賞。『学校の怪談』シリーズが大ヒットし、『愛を乞うひと』(98)でモントリオール世界映画祭国際批評家連盟賞、日本アカデミー賞最優秀監督賞を始め数々の賞を獲得。『ターン』(01)、毎日映画コンクール監督賞などを受賞した『笑う蛙』(02)、『魔界転生』(03)、『レディ・ジョーカー』(04)、『しゃべれども しゃべれども』(07)、『必死剣 鳥刺し』(10)、『太平洋の奇跡 -フォックスと呼ばれた男-』(11)、『エヴェレスト 神々の山嶺』(16)などがある。
綾野剛(あやの・ごう)
1982年1月26日生まれ、岐阜県出身。03年俳優デビュー。『そこのみにて光輝く』(14)でキネマ旬報ベスト・テン主演男優賞、ヨコハマ映画祭主演男優賞など多数受賞。その後、『新宿スワン』(15.17)シリーズが話題を呼び、『日本で一番悪い奴ら』(16)では、第40回日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞。ほか、『武曲 MUKOKU』『亜人』『ラストレシピ〜麒麟の舌の記憶〜』(17)、『パンク侍、斬られて候』(18)。待機作として、『楽園』(19)、『影裏』(20)のほか、『破陣子』にて中国製作映画に日本人俳優として初めて単独主演する。
小松菜奈(こまつ・なな)
1996年2月16日生まれ、東京都出身。『渇き。』(14)で鮮烈な映画デビューを果たし、数々の映画賞を受賞。以後、『近キョリ恋愛』(14)、『ディストラクション・ベイビーズ』『溺れるナイフ』『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(16)、『沈黙 -サイレンス-』『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第1章』(17)、『坂道のアポロン』『恋は雨上がりのように』(18)と話題作へ立て続けに出演。近作は『来る』(18)、『サムライマラソン』『さよならくちびる』(19)。待機作として2020年4月24日公開『糸』、2020年公開『さくら』がある。
綾野剛さん スタイリスト:申谷弘美 ヘアメイク:石邑麻由
小松菜奈さん スタイリスト:杉浦加那子 ヘアメイク:小澤麻衣(mod’s hair)

★プレゼント★
綾野剛さん、小松菜奈さん、平山秀幸監督のサイン色紙を1名様へ

『閉鎖病棟ーそれぞれの朝ー』
11月1日(金) 全国ロードショー

■キャスト:笑福亭鶴瓶 綾野剛 小松菜奈
坂東龍汰 平岩紙 綾田俊樹 森下能幸 水澤紳吾 駒木根隆介 大窪人衛 北村早樹子
大方斐紗子 村木仁 / 片岡礼子 山中崇 根岸季衣 ベンガル
高橋和也 木野花 渋川清彦 小林聡美
■原作:帚木蓬生『閉鎖病棟』(新潮文庫刊)
■監督・脚本:平山秀幸
■配給:東映
©2019「閉鎖病棟」製作委員会

(interview:岡信奈津子 / photo:山越めぐみ / edit&text:矢部紗耶香)