[インタビュー] 『こちらあみ子』大沢一菜 「自然とさびしくなったり、感情が湧いてきたりすることもあった」

インタビュー

芥川賞受賞作家・今村夏子さんのデビュー作を、数々の現場で助監督を務めてきた森井勇佑監督がメガホンをとり映画化した『こちらあみ子』。7月8日(金)より全国公開となる本作の主人公・あみ子を演じるのは、応募総数330名のオーディションの中から見いだされた新星・大沢一菜さん。今回は、演技未経験ながら圧倒的な存在感で“あみ子の見ている世界”を体現した一菜さんに、作品のことや現場でのこと、共演した井浦新さんと尾野真千子さん、そして森井監督についてお話をお聞きしました。

こちらあみ子』あらすじ
あみ子はちょっと風変わりな女の子。優しいお父さん、いっしょに遊んでくれるお兄ちゃん、書道教室の先生でお腹には赤ちゃんがいるお母さん、憧れの同級生のり君、たくさんの人に見守られながら元気いっぱいに過ごしていた。だが、彼女のあまりに純粋無垢な行動は、周囲の人たちを否応なく変えていく。
あみ子は誕生日にもらった電池切れのトランシーバーに話しかける。「応答せよ、応答せよ。こちらあみ子」―――。
奇妙で滑稽で、でもどこか愛おしい人間たちのありようが生き生きと描かれていく。

――オーディションの時のことを覚えていますか?

大沢一菜(以下、一菜) 人見知りだから、監督と初めて会った時はめちゃくちゃ緊張していました。ちょうど学校から帰ってきて、テストの点数が良かったことをママに電話で言おうとしたら、あみ子役に選ばれたと聞いて嬉しくて興奮しました。

――そうしていざ撮影が始まるわけですが、初めてのお芝居で、周りは知らない人だらけ。不安じゃなかったですか?

一菜 なんも心配なかったです。一菜以外もお芝居したことない子たちばっかりだったから、年上の子もいたけど、みんないっしょで、みんな“同類”です。(のり君役の)大関(悠士)くんも(坊主頭役の)橘高(亨牧)くんも広島の子だったので、いっしょに遊んでたら、一菜も途中からふつうに広島弁しゃべっちゃってたし、撮影中は四人がかりで一菜にマイクをつけようとするから、ずっと逃げ回ったりしていました。

――撮影がお休みの日はどうやって過ごしていましたか。

一菜 孝太(奥村天晴演じるお兄ちゃん)もいっしょに、ゲームセンターに行ったり駄菓子屋に行ったり。そんな感じで孝太とはずっと一緒にいたから、映画の中で不良になっちゃったときは、ちょっと寂しかったです。急に置いていかれる感じがして。

お父さん役の井浦新さん

――子どもたちとは一気に打ち解けたんですね。井浦新さんとの共演はどうでしたか。

一菜 最後、お父さんとトランプするシーンで、森の中だからようしゃなく虫が入ってきて……。ダンゴ虫以外の虫はマジで嫌いだから、ハッキョウしそうになりました。もう座ってられない!と思ってカラコン(録音助手の佐藤美潮)の方にささっと逃げたら、カラコンがちっさい声で「がんばれ」って言ってくれて。その間も新さんはお芝居をやめずにいたからすごいなって思いました。終わった後「この虫、何?」って新さんに聞いたら「俺の友だち。あり太郎、あり次郎…」とか言ってて「自然といっしょに生きてる人だな」と思いました。

――(笑)。

一菜 それと、新さんは撮影がない時は写真を撮って楽しんでいました。あみ子がりんごを食べてるところとか、黒板で遊んでいるところとか。

――一菜さんはこうやって取材で写真を撮られるのは……?

一菜 あんまり好きじゃないです。でも慣れるとだんだん楽しくなってくる!

――では、尾野真千子さんの印象は?

一菜 中庭で泣くシーンは、「本当に泣くんだ!」とびっくりしちゃいました。喉が枯れるほど叫んでいて、お芝居ってこんなことするんだ!って驚きました。あとは……中庭で新さんと尾野さんとやったスイカ割りも楽しかった。でも次の日から尾野さんが突然消えて。聞いたらクランクアップしたって聞いて、テンション下がっちゃった。

お母さん役の尾野真千子さん

――森井監督はどんな人でしたか。

一菜 第一印象は“のび太くん”みたいだったし、やさしい監督です。撮影中は「一菜のままでいいよ」と言ってくれました。

――長いセリフを喋るシーンでは、どうやって気持ちを作っていましたか。

一菜 あみ子はあんまり感情を表現しない子だけど、感情が出るシーンは難しかったです。でも自然とさびしくなったり、感情が湧いてきたりすることもあった。

――特に印象的なのは、坊主頭に「気持ち悪いんじゃろ?どこが?」って聞くシーンですね。

一菜 たいせつな(シーンな)のは分かってました。それまで人に対してばんさかばんさか騒いでたあみ子が急に大人っぽくなって、初めて開き直ったんだと思う。坊主頭は何も答えてくれないけど、あれはたぶん、あみ子に気持ち悪いところなんてないって思ったのかも。

――実際にできた映画を観て、どう思いましたか。

一菜 監督がこういうふうに演出していたのかと気づいたところがたくさんありました。お母さんのホクロは、いつも大きく見えるのに、お母さんの気持ちがしょぼんとしているときは小さくなってた。あと、周りの人たちからは「顔が変わったね」って言われます。自分でも一菜とは違う人に見えました。

©️2022『こちらあみ子』フィルムパートナーズ

――話を聞いていると、撮影がとても楽しかったことがうかがえます。クランクアップの日はさびしかったのでは。

一菜 みんなで花火をして、そのあと、“わんころべーカール会※”の集会をしました。「まだまだ一菜たちは続くぞ!」って言った気がする。(スタッフを前にして)なにを言おうかは最初あんまり考えてなかったけど、どんどんことばが思い浮かんで、そのまんま言った感じです。みんなとお別れするのはちょっとさびしかったけど、また会えるからだいじょぶだろう、と思ってました。

――撮影が終わって、劇中歌「おばけなんてないさ」のレコーディングにも挑戦しましたね。音楽を手がけた青葉市子さんとのお仕事はいかがでしたか。

一菜 歌に気持ちを込めるのが難しかった。青葉さんは、一菜がガムテープを顔に貼って遊んでいたら、その上から落書きをしてきました。ママにも爆笑されて……。レコーディングが終わった後、青葉さんにイラストをプレゼントしました(当該イラストは、青葉市子の「もしもし」配信ジャケットにも使用)。

――最後に。どこでも、誰とでもつながれるトランシーバーがあるとしたらどう使いたい?

一菜 ティラノサウルスと話してみたいです。会ったことないし、鳴き声しか聞こえないと思うけど。あとは昭和の人と話してみたい。ママの話を聞くとおもしろそうだと思うから。そして、ひいおばあちゃんとお話して、小さいときのママはどんな女の子だったかを聞いてみたいです。

※わんころベーカール会
大沢一菜がスタッフと結成した暴走族チームのこと。チーム名の由来は、一菜が撮影に持ってきていた2つの犬のぬいぐるみ、“わんころベー”と“カール”から。一菜を“総長”、スタッフが隊員となった。ちなみに森井監督は3番隊副隊長。
◯プロフィール
大沢 一菜(おおさわ・かな)
2011年6月16日生まれ、東京都出身。
本作で映画デビュー。
演技未経験ながら、オーディションで主役「あみ子」役に抜擢された。

映画『こちらあみ子』7月8日(金)より全国公開

大沢一菜 井浦 新 尾野真千子

監督・脚本:森井勇佑
原作:今村夏子(「こちらあみ子」ちくま文庫)
音楽:青葉市子
製作年:2021年
104min/カラー/ビスタ/5.1ch
©️2022『こちらあみ子』フィルムパートナーズ
https://kochira-amiko.com/
ヘアメイク:山口恵理子
スタイリング:檜垣健太郎(tsujimanagement)
ノースリーブニット:43,450円(税込)
ブランド名 : Kota Gushiken
問い合わせ先 : Kota Gushiken
info@kotagushiken.com
ビンテージのスニーカー:17,600円(税込)
問い合わせ:メイデンズショップ ウィメン
TEL:03-5772-5088
他はスタイリスト私物
(interview&text:シネモーション編集部/photo:斎藤奈津子)