柄本佑×中野裕太『ポルトの恋人たち 時の記憶』インタビュー ※web限定公開

インタビュー

過去のポルトガルと未来の日本を舞台にした愛憎劇『ポルトの恋人たち 時の記憶』。本作で宗次/加勢柊次を演じた柄本佑さんと四郎/幸四郎を演じた中野裕太さんにポルトガルや本作の魅力についてお聞きしました。

『ポルトの恋人たち 時の記憶』あらすじ
18世紀リスボン大震災後のポルトガル。復興事業のためにインドからつれてこられた日本人召使の宗次(柄本佑)と四郎(中野裕太)。屋敷で働く雑役女中、マリアナ(アナ・モレイラ)と心を通わす宗次だったが、理不尽な雇い主にたてついたことで銃殺されてしまう。21世紀東京オリンピック後の日本。工場縮小に伴い、リストラされ夢破れた日系ブラジル人の幸四郎(中野)は、ポルトガル人の妻マリナ(モレイラ)を残し自死を選ぶ。リストラ宣告をくだしたのは加勢柊次(柄本)だった。どちらの時代もあらがえぬ運命によって引き裂かれ、その挙げ句に恋人を殺害された女。その恨みを晴らすために選んだ手段は、思いもよらぬものだった…。3人の立場は微妙に入れ替わりながらも、ほとんど同じプロットが反復され、デジャブのように交差し、愛憎の不条理に引き裂かれた人間の業をあぶり出す。

国で選んだのは初めてです(柄本)

−−本作のお話を頂いたときの心境をお聞かせください。

柄本佑(以下、柄本) ポルトガルに行ける……やります!みたいな感じで(笑)これまで作品内容はもちろんミーハー心で監督、共演者でご一緒したい!というのはあったんですが。国で選んだのは初めてでした。

中野裕太(以下、中野) 不思議とお話をもらったときから、なんの違和感もなく直感として、「これ、僕がやる」と感じました。疑問もなく、不思議でしたね。

−−柄本さんは本作出演の前からポルトガルがお好きだったんですか。

柄本 ポルトガル出身のマノエル・ド・オリヴェイラ監督の映画が大好きで。それでいつか訪れてみたいと思い、新婚旅行もポルトガルに行ったんです。今回の撮影で3年ぶりの2回目で、やっぱりすごくいい場所でした。僕自身、急ぐよりゆっくりとした時間が好きで。ポルトガルのゆっくりとした速度と人の大らかさの波長が、自分の体内時計や感覚と非常に合う感じがしていいんですよね。

−−中野さんは、違和感がなかった理由についてご自分の中でわかった瞬間はありましたか。

中野 現地で撮影や生活をする中で、前世ポルトガルなのかなと思うくらいに違和感がなく馴染んで。お話をもらった際に感じた違和感のなさは国そのものに対してだったのかもしれないと思いました。

柄本 それにしても馴染みますよね。

中野 まず、お米が出てくる安心感がありますし。南蛮貿易の時から関わりがあって潜在意識としても安心感や信頼感があるのかもしれません。

柄本 お米に加えて、イワシの塩焼きもありますし(笑)

一冊の詩集が、僕と友人を繋いでくれました(中野)

−−ポルトガルでの生活はいかがでしたか。

中野 最初、ブラガという街にいたんですけど、撮影が始まる前に弟夫婦がポルトガルに来ていたので、ポルトを一緒にまわって。その時に、世界で最も美しい本屋にも選ばれたレロ・イ・イルマオン書店へ行って。僕は詩が好きなので、詩の本を買おうと大きい本を手に取ったらなぜかそれに小さい本が挟まっていたんです。面白いなと思って、その小さい本を買ってそれをポケットに入れて歩いていたんですよ。

柄本 入れてた!

中野 撮影期間中、下着など服が足りなくなって買いに出かけて店舗を出た時に、現地のカメラマンの人に声をかけられて。「店舗に入る前からずっと見ていた、撮らせてほしい」と言われ、写真を撮ったんですが、その人がすごく詩が好きな人だったんです。ポケットに入っていた詩集をなんで持っているかという話をしていて。僕が本当に買いたかったのは、日本でポルトガル語を勉強していた時に読んだ『煙草屋』という詩なんだけれど、誰が書いたか忘れてしまって言うと、そのカメラマンの方がフェルナンド・ペソアという伝説の詩人だ!と。そのまま、詩の本屋があるからとそこに行って、その人の家まで遊びに行って……。

柄本 行ってた!

中野 その人とその人の彼女とご飯食べて。行って1週間で友だちができちゃった(笑)一冊の詩集がきっかけで友人と繋がって、こんなことってあんまり起こらないですよね。それも含めて、自然にスタートから親近感を感じました。

柄本 すごい。思い出した!今、話聞いていて点が線に繋がったというか。本の話や友人の話は聞いていたんですが、そんなエピソードだったとは(笑)

過去と未来の中で「現実」を意識して(中野)

――本作は、過去と未来の2つの話がリンクする部分はありつつも全く違う世界でしたが、現在の視点からそれぞれの時代を演じるにあたって工夫した点などありましたか。

柄本 過去と未来というホンの中に2本の物語が入っているという点以外は特に意識していませんでした。たしかに、輪廻というキーワードも重要ではあるけれども、僕の演じた宗次と加勢柊次は役的に共通することがないので意識せず別々の役として演じました。元々、外的な傷という共通点があるので、それによって観る側が意識すると思いましたし。柊次はガスパールの生まれ変わりだと認識していたので、共通点や共通項を意識しすぎないようにしました。

中野 本作は、現実に限りなく近く見せているファンタジー。なので、僕たちの現実を意識して、ファンタジーの方を意識しないというのが大前提に演じました。ただ、2本の映画を撮っている感にプラスして、僕の役が過去と未来どちらも直接的に愛憎劇に絡まないんですよね。ドロドロした部分は佑くんが入っていく役で。僕は周りで浮遊している感じ。「浮遊感」がキーワードだと感じたので、限りなくファンタジーに近いファンタジー部分を担保できるような、さじ加減は意識しました。すごく難しかったです。さじ加減でリアルにそこに入り込むと究極にファンタジーに見えるポイント、シンギュラリティみたいなものがあって。そういうところを目指せればいいなと演じました。

――最後に、本作を観る方にメッセージをお願いします。

柄本 本作で、監督のやりたいことや伝えたいことがあるとは思うんですけど、解釈できるような余白が散りばめられている作品になっています。100人が観たら100通りの解釈があると思いますし、色んな解釈で楽しんでもらえたらうれしいです。

中野 映画というのは、いろんなもののきっかけになると思うんです。デートのきっかけでもいいし、知らなかった世界を知るでもいいし。そういう軽い気持ちで入ったら意外とドギツイ愛憎劇で(笑)本作は新しい知見、知的好奇心を刺激するような面白いスパイスが入っていると思います。普通のカレーもいいけど、スパイシーなインドカレーを試してみよう。あれ、意外と美味しかったんだ、という新しい香辛料を試すような感じで。新しい扉を開けるように本作を観ていただいたら、観た方が何かを持って帰っていただける気がしています。

◯PROFILE
柄本佑(えもと・たすく)
1986年、東京都出身。黒木和雄監督の映画『美しい夏キリシマ』(03)で主演デビュー。主な出演作品として、映画では『十七歳の風景〜少年は何を見たか』(05)、『僕たちは世界を変えることができない。』(2011)、『横道世之介』『フィギュアなあなた』『今日子と修一の場合』(13)『ピース オブ ケイク』(15)、『GONIN サーガ』(15)、『追憶』(17)、舞台では「エドワード二世」(13)、「百鬼オペラ 羅生門」(17)、「秘密の花園」(18)、ドラマでは「あさが来た」(NHK・15~16)、「スクラップ・アンド・ビルド」(NHK/16)、「おかしな男~渥美清・寅さん夜明け前~」(NHK・16)、「コック警部の晩餐会」(TBS/16)、「平成細雪」(NHK BSプレミアム/18)、「ROAD TO EDEN」(CX/18)など。18年は主演映画『素敵なダイナマイトスキャンダル』、『きみの鳥はうたえる』がある。19年に『ねことじいちゃん』『アルキメデスの大戦』がひかえる。
中野裕太(なかの・ゆうた)
1985年、福岡県出身。2011年、佐々部清監督『日輪の遺産』で映画デビュー。その後、佐々部監督の映画『ツレがうつになりまして。』(11)、長澤雅彦監督『遠くでずっとそばにいる』(13)、園子温監督『新宿スワン2』(17)、などに出演。2012年には『レンタル彼女』で舞台初主演。『もうしません!』(15)で映画初主演。日本・台湾合作の主演映画『ママは日本へ嫁に行っちゃダメというけれど。』(17)、や中国映画『男たちの挽歌2018』(18)に出演するなど海外作品でも活躍。高校時代に米国、早稲田大学時代にイタリア・ミラノ大学に留学し、英語、イタリア語、フランス語を話せるマルチリンガル。北京語は日常会話程度レベル。本作ではポルトガル語を習得。

ポルトの恋人たち 時の記憶

1110日(土)シネマート新宿・心斎橋ほか全国公開

©2017『ポルトの恋人たち 時の記憶』製作委員会

プレゼント ★柄本佑さんと中野裕太さんのサイン入りプレスを2名様へ★

(文・大山峯正 写真・山越めぐみ)