[インタビュー] 『カツベン!』成田凌×黒島結菜×周防正行監督 ※201902号掲載

インタビュー

『Shall we ダンス?』(96)『舞妓はレディ』(14)の周防正行監督最新作『カツベン!』。映画がモノクロでサイレント上映されていた時代に日本独自の文化として、観客をしゃべりで魅了した活動弁士。活動弁士をに夢見る少年を演じ、映画初主演となる成田凌さんとヒロイン役の黒島結菜さん、周防正行監督に作品の魅力や撮影エピソードをお聞きしました。

『カツベン !』あらすじ
子どもの頃、活動写真小屋で観た活動弁士に憧れていた染谷俊太郎。“心揺さぶる活弁で観客を魅了したい”という夢を抱いていたが、今では、エセ弁士として泥棒一味の片棒を担いでいた。そんなインチキに嫌気が際した俊太郎は、一味から逃亡し、とある小さな町の映画館〈靑木館〉に流れつく。靑木館で働くことになった俊太郎は、“ついにホンモノの活動弁士になることができる!”と期待で胸が膨らむ。しかし、そこには想像を絶する個性的な曲者たちとトラブルが待ちうけていた!俊太郎の夢、恋の運命やいかに…⁉︎

テンションが上がる、演じやすい現場でした(成田)

––お二人は今作のお話をもらった時いかがでしたか。
黒島結菜(以下、黒島) こんなにすごい作品に携われる事がありがたく嬉しかったですし、不安もありましたが、一生懸命頑張りたいなという気持ちでした。
成田凌(以下、成田) 周防監督の作品で主演ができる事が本当にうれしかったですし、身の引き締まる思いでした。天才活動弁士として映画の世界に観客を引きつける熱量や魅力をどう表現するか……。決まった時に、一気に責任感が湧き出てきたのを覚えています。

––役作りではどんなことを意識しましたか。
黒島 同じ映画でも活動弁士が違えば、作品が変わるということを意識しました。また、私も活弁をするシーンがあったので、映画を語るシーンの練習を通して少しずつ、私の中に落とし込んでいきました。人となりは私に近く感じたので、ある意味で意識せず自然に演じました。
成田 活動弁士として語ることを常に考え、演じました。声のために、タバコは半年間やめました(笑)。あとは、監督や現場の皆さんと相談しながら役を落とし込んでいきました。

––成田さんと黒島さんにとって、周防組の雰囲気はいかがでしたか。
成田 竹中直人さんや渡辺えりさんなど、周防組のみなさんがいる安心感がありました。渡辺さんが黒島さんの事が大好きでずっと服の袖を引っ張っていましたよね(笑)。
黒島 えりさんがムードメーカーで現場の空気を作ってくださっていて、楽しかったです(笑)。
成田 竹中さんも口笛を吹いていたり、和気あいあいとしていて。
黒島 監督はずっと写真を撮っていました。
成田 オーディションの時からずっと撮り続けていましたよね(笑)。
周防正行(以下、周防) 単に写真を撮るのが好きなんだよね(笑)。
成田 なにより監督が本当に楽しそうに毎日現場にいらっしゃるので。それがうれしいし、テンションが上がる、演じやすい現場でした。

もっと頑張ろうと思い、演技に臨めました。(黒島)

—様々な人が動いているシーンが多かったですが、タイミングなど、どのように意識されていたんでしょうか。
周防 活動写真は今のハリウッド映画のように色んなアングルから撮ったものを細かいカットで観せるものではなかったんです。様々なアクションが1つの画面で完結する。たとえば、今なら蹴られて倒れて転がってというのを何カットにも割って見せて迫力のあるシーンにするけども、そうじゃなくて昔は1つのカットで丸ごと観せていたんです。それを今作では意識しました。いつもなら2-3カットに分けて撮るのをワンカットでやろうとかね。わざと撮り方をアナログにしたところはあります。アクションに合わせてテグスで仕掛けを引っ張ってみたりとタイミングが重要なシーンも多々ありました(笑)。
成田 出来上がったのを観た時に感動しました。

––今作のキャスティングはどのようにして決められたのでしょうか。
周防 成田さんに関しては、声やキャラクター、演技力なども重要な要素なのですが特に成田さんが持つ雰囲気で選びました。選考の後、成田さんと関わる中で二枚目だけでないお茶目ところがあることがわかり(笑)。今作にとって、とてもプラスになりました。黒島さんは「私が女優をしていていいのか」とか、「女優という仕事を私は選ぶべきなのか」とかそういう迷いのようなもの、どこかで逡巡するようなところがある……。それがこの映画のキャラクターの育ち方や振る舞いにうまく重なるんじゃないかなと思い、選びました。陰とまでは言わないけど、ニコニコしながら「私がんばります!」みたいな明るく素直な魅力とは違う種類の若さの魅力といいますか。
成田 すごくわかる気がします
周防 お芝居をしている時にも、いつも自問自答しているような。今のでいいのかな……とか
黒島 それは常にありました。
周防 あ、あるんだ。見る目あるね俺!(笑)。
成田 (笑)。
黒島 私がカツベンするシーンは一番不安だったのですが、その時に監督に「大丈夫ですか?これで……。」と聞いたら、「大丈夫にします。」とおっしゃってくださって。それがすごく印象に残っています。常に満足しないで、もっと頑張ろうと思い、演技に臨めました。

—本作を観る方にメッセージをお願いします。
周防 日本映画が意識的に活動弁士という役割を作ったわけではなく、日本の語り芸という伝統から日本人が映像文化を受け入れる時に自然と必要としたものだったからこそ、世界のどこにもない独特のスタイルとして育っていった……。活動弁士は今でいうアニメの声優さんのはしりのようなもので、日本文化の中に根付いている「語り」から生まれたものなんです。まず、日本映画の始まりに欠かせなかった活動弁士という存在を楽しんでほしいです。
黒島 どんな方に観ていただいてもすごく面白い作品になっています。映画好きの方が観た時どう感じるのかも気になります。肩の力を抜いて劇中の活動弁士の語りも含め楽しんでもらえたら嬉しいです。
成田 本当に楽しくて面白い作品です。活動弁士の映画と聞くと難しく捉えられそうなのですが、そうではなく老若男女に楽しんでいただける作品になっています。軽い気持ちで観に来てほしいです。また、日本映画の始まりはこれだよと世界中の人に観てもらい、伝えることができる作品だと思います。

◯Profile
成田凌
1993年11月22日生まれ。埼玉県出身。現在もメンズノンノモデルとして活躍する一方、俳優としても「逃げるは恥だが役に立つ」(16/TBS)、連続テレビ小説「わろてんか」(17-18/NHK) といったテレビドラマから、「キセキーあの日のソビトー」(17) 、「劇場版コード・ブルー・ドクターヘリ緊急救命-」(18)など話題となった映画に出演する若手最注目俳優。近年の出演作品には、「スマホを落としただけなのに」(18)、「チワワちゃん」(19)、「愛がなんだ」(19)、「さよならくちびる」(19)、「人間失格 太宰治と3人の女たち」(19)などがある。本作にて映画初主演をつとめる。
黒島結菜
1997年3月15日生まれ。沖縄県出身。映画「ひまわり~沖縄は忘れない あの日の空を~」(13)で女優デビュー。その後、「アオイホノオ」(14/TX)、「ごめんね青春!」(14/TBS)、大河ドラマ「花燃ゆ」 (15/NHK)、「時をかける少女」(16/NTV)、土曜時代ドラマ「アシガール」(17/NHK)、大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」(19/NHK) 、「死役所」(19/TX)などのテレビドラマや、「少女ミウ」(17)といった舞台、「サクラダリセット」(17)、「プリンシパル~恋する私はヒロインですか?~」(18)、「十二人の死にたい子どもたち」(19)などの映画で活躍する若手実力派女優のひとりである。
周防正行監督
1956年生まれ。東京都出身。『ファンシイダンス』(89)で一般映画監督デビュー。『シコふんじゃった。』(92)では学生相撲の世界を描いて数々の映画賞を受賞。続いて『Shall we ダンス?』(96)では社交ダンスの世界に着目してを描き、第20回日本アカデミー賞13部門独占受賞した。その後も『それでもボクはやってない』(07)では、刑事裁判の内実を描きいてセンセーションを巻き起こし、その後も巨匠ローラン・プティのバレエ作品を映画化した『ダンシング・チャップリン』(11)や、『終の信託』(12)、『舞妓はレディ』(14)と次々と話題作を発表している。2016年紫綬褒章を受章。

『カツベン !』

全国公開中!

監督:周防正行 脚本・監督補:片島章三
出演:成田凌 黒島結菜 永瀬正敏 高良健吾 音尾琢真 竹中直人 渡辺えり 井上真央 小日向文世 竹野内豊 ほか
©2019「カツベン!」製作委員会