[インタビュー]『愛しのダディー殺害計画』イリエナナコ監督 「自分の脳内にわがままにしていった方が面白くなる気がしています」

インタビュー

CMやMV、ショートムービーなどを手がけてきたイリエナナコ監督による劇場デビュー作『愛しのダディー殺害計画』が12月11日(金)よりWHITE CINE QUINTOにて一週間限定公開となります。愛する父親に対し殺害計画を企てる姉妹の顛末を、イリエ監督ならではのビビッドな色彩とユーモラスな演出で描いた作品で、活躍めざましいモトーラ世理奈さんとYouTuberとしても人気を集める佐藤ミケーラさんがW主演を務めています。今回は、イリエ監督に本作への想いや表現すること、その火種についてなどをお話をお聞きしました。

愛しのダディー殺害計画』あらすじ
マリ(佐藤ミケーラ)とエマ(モトーラ世理奈)の姉妹は、14年前⺟親が恋⼈と家を出て⾏ってから、優しいダディー(岡 慶悟)と3⼈、周りが羨むほど仲良く暮らしてきた。しかしある朝、ダディーは「再婚をしたいと思っている」と⾔い出す。⼤事なダディーがいなくなるなんて許せない。また失うくらいなら、私たちの⼿で殺しちゃおう。姉妹は、幼馴染の照美(細川佳央)を巻き込んで、ダディーの殺害計画を⽴て始める。

 

––本作はもともとイリエ監督の中でお話の構想があったのでしょうか?

イリエナナコ(以下、イリエ) 実際の内容や設定などは企画を詰めるときに考えていったのですが、以前から撮りたいと思っていたテーマでした。実話に基づいたりはしていませんが、少し前に実家が無くなるという出来事があって…。

––…え!?実家が無くなるとは…?

イリエ ある日突然「家、解散します!」みたいなことが起こりまして…。家族それぞれ強く生きて行こうぜ、という突然謎の展開が起きたので、その影響は少しあると思います。その時の自分には家や家族のお話がすごくリアルだったので、本作はフィクションですが、こういうお話でいこうという部分は、その時に見えてきました。とはいえ、MOON CINEMA PROJECTに企画を出すときも自分の中ではいろいろ考えることが続いていた感じでしたけど。

(c)MOON CINEMA PROJECT

––なるほど、そんな出来事が…。本作では衣装や美術はもちろん、隅々までこだわりを感じました。制作や撮影の現場はいかがでしたか?

イリエ 昔からわりと人を集めて何かを作るというようなことをしてきたので、とてもやりやすい現場でした。私自身、自分で全部を出来ないタイプなので、昔から「これをこうしたいんだけど、みんな助けて~」というようなことが多かったんです(笑)。

––思っていることをみんなに伝えて何かを作る、という機会が多かったのですね。

イリエ 誰かのためにきっちり整理をして、準備をして、作って、みたいなことが苦手なので、小学生くらいの頃から、自分自身が得意なことをやっていこうと思っていました。

––すごい…!そして本作はキャラクターも皆それぞれ魅力的でした。マリ(佐藤ミケーラ)とエマ(モトーラ世理奈)のキャラクターはどう生まれたのでしょうか?

イリエ 姉妹の話にしようということは、もともと頭の中にありました。そして、二人は一緒にいろんなことをたくらんだり、何も喋らなくてもお互いのことがわかったりするような双子に近い姉妹がいいなと。基本的に二人はずっと一緒にいて、キャラは少しだけ違うということも最初から頭の中にあったので、ナチュラルにああいう姉妹の形になっていきましたね。もう少し長い尺で作ることができていたら、決裂はしないけど、二人が別れてからのことを描きたかったなという想いはあります。一人になったときに、二人はそれぞれ何を考えるのか、みたいな。

(c)MOON CINEMA PROJECT

––そして、マリとエマと一緒にいる細川佳央さん演じるテルちゃん(照美)の存在も本作ではポイントになっていましたね。

イリエ テルちゃんは、多分一番普通の感覚に近い人ですね。バックグラウンドはインテリヤンキーで、いろいろと癖は強めなんですけど…(笑)。私がマリとエマだったら、ああいう人に傍にいてほしいなという想いがあったんです。俯瞰しているわけではないけれど、二人の言い出すことに対して動揺してくれたり、面倒を見てくれたりする人が近くに居てほしいなと。

 

––また、本作は「変わっていくこと、失っていくこと」がテーマだとリリースのコメントでも拝見したのですが、そのテーマが生まれたきっかけや背景を教えていただきたいです。

イリエ このテーマは、日常からずっと気になっていたことでした。以前、言葉の展示をした時に、「変わるのも忘れるのも悪ではなく私たちただ新しくなっていく生き物なだけ」という言葉を書いたんですけど、人との関係が変化するときや、人がどこかに行ってしまうときって、悪いことでは無いのに「なぜ変わってしまうの?」という怒りのような感情が生まれるような気がしていて。そのことが私の中でずっと疑問としてあったのかもしれません。人は、契約や約束をしていても気持ちが変わることはあるし、何かが変わるとか無くなっていくということはあまりにも普通のことだから、「そういうもの」でいいのになと。

––今回そのテーマで映画を作ってみて、何か変化はありましたか?

イリエ 解決したくて作っているわけでは無いし、解決するものではないから、そのことが気になっている間は形を変えてまた何かをつくっていくのだろうなと思います。突然そこに対して興味がなくなることもあるかもしれませんが(笑)。今、長編で書いている脚本も、終わった後に人ってどうやって次をはじめられるの?という「終わりについて」の話なので、ちょっと違うかもしれないですが、ほぼ近いテーマです。

 

––イリエ監督は、映画作り以外でも、言葉やイラストなどさまざまなクリエイティブをされています。それでもなぜ映画を作り、そしてこれからも作っていきたいと思っているのでしょうか?

イリエ 私の中で映画は不思議な位置にあって…(笑)。絵や言葉の作品は、私の脳内をそのまま書き出しているので、外に出す時はお客さんに対する意識はゼロだし自分の意識もゼロくらいの状態ですが、広告などは人に見せることが前提としてあるので、お客さん100くらいの感じなんです。広告を作るときも気持ちが動くものにしようと思っているので、左脳オンリーで作ってはいないのですが、絵や言葉を生み出す場所と、広告を作る時に考える場所との距離は実はすごく遠くて。出来上がったものが結果近いものになる場合もありますが、私の中ではめちゃくちゃ正反対の場所にあるんです。

そして、「これは外に出さないとしょうがない」というような映画を作る火種になるコアな部分も、中間より絵や言葉の作品の方に近いところにあります。自分以外の人と作ることは面白いし、だからこそ映画は意味があると思うけれど、私の場合、火種をより絵や言葉の方に近付けて、自分の脳内にわがままにしていった方が面白くなる気がしています。だから、もしかしたら『愛しのダディー殺害計画』が一番一般的な作品になるかもしれません(笑)。多分もっと偏屈になっていく気がしていますね(笑)。

 

〇プロフィール
イリエ ナナコ(いりえ・ななこ)
1985年東京生まれ。広告会社に勤務後、独立。フリーランスで、絵と言葉の作品「図 シリーズ」の発表、映像制作などのアーティスト活動を行う。広告ではコピーライター、クリエイティブディレクターとして活動。第3回ムーンシネマプロジェクトにて、『愛しのダディー殺害計画』の企画がグランプリ受賞。他に沖縄国際映画祭にて、長編企画『地団駄は前へ踏め!』が審査員特別賞を受賞。短編作品『触れッドペリー』が2020年末完成予定。
http://www.irienanako.com
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映画『愛しのダディー殺害計画
WHITE CINE QUINTOにて12月11日(金)より一週間限定公開
アップリンク京都にて12月下旬上映

佐藤ミケーラ 、モトーラ世理奈
岡慶悟、細川佳央、矢野陽子、四篠久美子、久保田芳之、川上史津子、齋田吾朗
濱田龍司、羽柴真希、河野ひかり、添野豪、添野芳夏、クロエ潤、大友陽葵、車谷星奈
Zac Mehdid、JC、福地諒

脚本・監督:イリエナナコ エグゼクティブプロデューサー:田中雄之
プロデューサー:南陽 助監督:張元香織 撮影:JUNPEI SUZUKI
照明:ARATA IJICHI  美術:上松奈央 サウンドデザイン:吉方淳二 録音:寒川聖美
衣装:萩原真太郎 ヘアメイク:扇本尚幸 制作担当:二宮崇 制作進行:田中麻子
タイトルデザイン:徳原賢弥  スチール:オノツトム CG:近藤勇一 編集:古川達馬
音楽:山本ぶち”真勇 テーマ曲:Newspeak「july」
製作:MOON CINEMA PROJECT   制作プロダクション:ファントム・フィルム
配給:イハフィルムズ 宣伝協力:髭野純
公式サイト:https://www.itoshinodaddy.com
公式Twitter:https://twitter.com/itoshinodaddy
(2019|カラー|28分 | 日本)
(c)MOON CINEMA PROJECT
(interview&text:矢部紗耶香/photo:浅野耕平)